第2話 波長

ページをめくろうとした時、ようやく視線に気づいた。



誰かが側に居るとは思わず

内心驚いたが、それ以上に

大きく潤んだ瞳

緩くウェーブがかったダークブラウンの髪

柔らかく穏和な雰囲気を醸す女の子。

引き込まれるように見入ってしまった。



「どうした?」

無難なフレーズを選んだつもりだった。


「ごめんなさい。邪魔しちゃったかな」

「いや、俺の方こそ本に没頭して気付かなかった。邪魔だったかな」


彼女は口元に手を当てている。

俺も驚いたが彼女も予想外だったようだ。



誰だ? 初めて見る顔だ



「何読んでるのかなって気になって…」

「この作者の小説が好きで、よく読んでいるんだ」


本を伏せ、向かいの椅子に促した。

「はじめまして、だよね。多分」

「同じ学校でも接点がないと気付かないものだな」



初対面のはずなのに、どこか久々の再会のような

気の許せる空気感が少しの沈黙の中に流れた。

俺にはそんな気がした。





「えっと………」


「寺西、寺西 しゅうだ」

彼女はプッと吹き出した。

「何が可笑しい?」

「だって“ボンド、ジェームズ・ボンド“

みたいな名乗り方する人に初めて会ったから」


「よろしくね、寺西君。

正田、正田 千里ちさとだよ」


手持ち無沙汰で机に投げ出した、手を握り返してきた。

「握手を求めた訳ではないのだが、

よろしく、正田さん」



馬が合う、波長が合う相手はいるものだ。

歯車がかみ合うと、些細なきっかけから

物語は動き出すものだ。


俺にはそんな気がした。


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