第12話 2人きりの図書室③

パタンという音がして咄嗟に横を見ると、さっき読んでいた本を閉じている水瀬さんがいた。

どうやら読み終わったようだ。

そういえばなんの本読んでいたんだろう、と思い恐る恐る横目で覗いてみると

__“転生したら村人Aでした(4)”。

あ、これ確定だわ。

なんなら4巻まで読み進めちゃってるわ。


__よし、もう思いきって聞いてしまおう。

「あの、水瀬さん。もしかしてだけどラノベとかアニメとか好きなの?」

そう尋ねると、水瀬さんはぱぁーっと顔が明るくなって

「うん! 大好き!!」

と満面の笑みで答えてくれた。

言わずもがな俺は尊死した。

自分に対して言われた訳では無いけど、破壊力は抜群だった。

席替えをしたばかりの時の余裕なんてものは、もう微塵も残っていないようだ。

放心していた俺に水瀬さんは

「そ、そういえば田中くんもアニメとか好きなんだよね?」

と言った。

「うん結構好きだよ」

我に返った俺はそう反射的に答えたが、ふと疑問に思った。

__なんでその事を知っているんだ? と。

水瀬さんにアニメが好きだとかそういう事を話した覚えはないし、なんならこんなに会話が出来たのは今日が初めてなはずだ。

俺は頭の中が(?)ハテナだらけになってしまっていた。

どうやら表情にも出てしまっていたらしく、水瀬さんは

「あ、あの全然盗み聞きするつもりじゃなくてつい聞いちゃったというか。前に前野くんと話してたの聞こえてたの!」

と焦りながら少し早口で言った。

あぁ、それでちらちら見ていたんだ。と納得する反面、聞かれていたのかと言う恥ずかしさが込み上げてきた。

「そうだったんだ……ごめんちょっとうるさかったかも」

そう俺が言うと、水瀬さんは顔を赤らめ、こう言ったのだ。

「そうじゃなくて! __そういう話とかできるの羨ましいなって思ってたの」と。

正直とても驚いた。

大抵の人がそうであるように、キモヲタって引かれると思ったからだ。

でも水瀬さんは違っていた。

寧ろ羨ましいと言ってくれた。

そう言えば水瀬さんはあまり友達と一緒にいるところを見た事がないし。尚更なのだろうか。

「じゃあさ、水瀬さんもまた話さない? あ、でも俺なんかと話すの嫌だったら全然__」

「いいの⁉」

水瀬さんはびっくりするほど笑顔でそう言った。

自然と俺も笑ってしまうほどの、見たこともないほど素敵な笑顔だった。


残念ながらここで時間が来てしまい図書室を閉めることにした。

校門前で「じゃあ、また明日」と水瀬さんに手を振ると、「うん! また明日!」と手を振り返してくれた。

そして俺と帰る方向が逆らしいので、そこで別れた。

暫く歩き後ろを振り返ると、なんとも楽しそうに軽くスキップをしながら帰っている水瀬さんの様子が見えた。

なんでスキップしてんだ、と可愛すぎて少し笑ってしまった。

そして俺も鼻歌を歌いながら家に帰ったのだった。

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