第11話 親への大恩

 あれから人間一人と犬五匹の生活をしている……。仔犬の世話をしているモグは忙しそうだ。トラもサポートしている。来世でこういう生活が待っているのかと思うと畜生界もまんざらでもないなと思えてくる。


 確かに母への恩は計り知れない。陣痛など産まれる前から世話になっている。飲ませてもらった乳の量はどれだけのものか。寒いと思えば服を着せてもらい、暑いと思えば服を脱がせもらう。自分はボロを着ても子供にはきれいなものを着せる。恩を挙げば切りがない……。


「こんにちわ、お母さん着いたよ」

月に一度、病院に連れて行く。仕事でもない限り兄がいる。僕が支度の手伝いをしようとすると「自分でさせろ」と怒鳴る。89歳、「どうしていいかわからんとよ」が口癖になった。兄にはもう少し母に優しくしてほしいと思っているが言えない。月に一度来るだけの僕が毎日世話している兄に言えるわけがない。それに母が亡くなれば一番悲しむのは兄だと思っているからなおさらだ。今のところ僕に出来ることは月一の通院だけだ。もっと何かお母さんが喜ぶことをできればいいのだけれど……。


「エサ代だいじょうぶ?」モグが心配そうに尋ねた。

「だいじょうぶだよ。子供のことだけ考えなよ」

「うん。ありがとう」

「モグ、トラさんのお嫁さんになってくれてありがとうな」

「うん。でもこれは定めなの」

「定め?」

「うん。ジタバタしても変えられないの」

「そうなの?」

「うん。トラさんも仕事コロコロ変えるし、裏では博打もやってる。あなたと同じよ」

「そうなんだ。大変だね……」

「この大変さは美里にしかわからないの」

「……」

「こうやって何とか生きていくしかないの。みんなそうなのよ」

「うん、なるほどね……」

モグは子供の世話に戻った。


「旦那。何かやることございますか?」

「ああ、トラさん、ありがとう」

「いえ、私の甲斐性なしで迷惑かけて……」

「いや、僕の来世だから迷惑ではないよ。むしろ今世での僕の悪性をトラさんが引き継ぐ形となって申し訳ないよ」

「……おいらが終わらせます」

「いや、僕が終わらせるよ……」


「旦那。あのう、自分、生きてる意味がわからなくなるときがあるんです……」

「僕もあるよ……」

「意味あるんですかね?」

「意味ないんじゃない。ただね、生きてるとごく稀に生きていて良かったと思えることがあるんだ。ごく稀にだよ。そのために生きてるんじゃないかな……」


「はい……。オイラ、豊子が好きです」

「豊子?」

「モグの本当の名前は豊子です」


「うそだ?……お母さん……と同じ?……」





            おわり

            モグ2はじまるよ




                 



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モグ 1【六道輪廻編】 嶋 徹 @t02190219

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