第4話 モグの秘密

 今日は残業が出来なかった。やりたかないけどやらないと。いつもより3時間早く帰宅した。コンビニでモグに缶詰でも買って帰ろう。機嫌なおしてもらわないと。


「ただいま」

ん?シャワーの音がする。おそるおそる見るとシルエットがどう見ても嫁だ。

「なんで?」

「お帰りなさい。早かったわね」と言って出て来た姿はモグだった。

 「あれ?鶴の恩返しみたいだなあ」不思議だけど何も聞くまい。モグが飛び立って行ったら大変だ。

「残業出来なかった。10月は暇らしい。仕方ない」

「そう、仕方ない」

「缶詰買ってきたよ。食べてみて。半分」

「なんで1個じゃないのよ!」

「でもおまえ考えてみて。気にいったら毎日買ってこいというでしょ。そしたら食費大変になるよ。だからいまのうちから半分でガマンしなさい」

「あ~あ、貧乏はいやだ。わたしは血統書付のお嬢様よ」


 確かにそうだ。モグは大きなモ-ルの一角にあるペットショップで購入した。妻の即買いだった。30万円近くはしたと思う。なにせ昔からお金には無頓着だったから。妻は代々と犬を飼い続けている。モグの顔をとても気に入ったみたいだった。確かに美人だし、散歩していても「これはかわいい」と言われることが多かった。妻は溺愛した。以前、飼っていた犬が交通事故で亡くなったときは私の前で号泣した。こんな姿を見せたことはなかった。モンジロウって言ったかな。遺骨はまだ実家にあるのではないか。義父が早く処分しろとやかましく言っていたっけ。


「うまい、バリうま」

「あ、そう。僕が見てもおいしそうだもん」

「毎日たべたい。なんとかしてよ」

「う~んコンビニではなくて量販店で探してみるよ」

「時間はないわよ」

「なんでそんなに急がせるんだよ」

「早くご飯食べて、散歩行こ」

「うん」


 モグが何を隠しているかはわからないがそんなことはどうでもいい。そばにいてくれるだけで……ひとりにはなりたくない

 




 

 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る