夫婦だからってラブラブとは限らない

茶子

第1話 例えば寝起きの時のこと



甘寧あまねさん。俺の嫁。

太陽がまだお目見えしない夜明けの…何時?四時過ぎくらい?

時計…どこだっけ、頭の上かな。



せんべいみたいに平たい布団の上に、俺たち夫婦は寝転がる。

そして何より甘寧は…いびきと寝相がすこぶる悪い。



「…っいっ、て」

「うぅん…」



可愛い顔からは想像も出来ないこの鼾。



「ぐぁぁ…」

「…」


まぁ、慣れたらこんなもんかな。




そろそろ起きて仕事の準備でもしようかと思うけれど。なんとなく起きるのもだるい気もする。ってか、腹減ったからお菓子食お。



巻き付いてる腕をそっと解き、ぬぅっと体を起こす。狭いワンルームの、狭い足場。ちょっと小洒落た絨毯の上をそろっと歩いて菓子まで歩く。



手に取ったのは、駄菓子の蒲焼き。焼肉味のやつ。ベリっと乱暴に開けて、豪快に齧り付いた。うっま。



「…私も食べる」

「起きたの」



膨よかな身体に小さいタッパ。まぁつまりは、よく食べる人ってことだよな。



「カルパス食べる」

「濃ゆ…」

「じゃあ焼肉味とって」

「濃ゆ…」

「じゃあお茶入れて」

「だる…」



とりあえず食ってる最中なので適当な返答をし続けてみた。すると苛々したように起き上がると、そのまま嫁は立ち上がり、冷蔵庫からお茶の入れ物を出した。



「邪魔なんだけど」

「はぁ」

「そこに居るならコップくらい取ってよ」

「はい」



ピンク色のマグカップを手に取って渡すと、とぽとぽとお茶を注いで一気に飲み干した。そしてまた注ぎ…飲み過ぎなんじゃないかってくらいごくごく飲む。

満足したのは二杯半くらい飲んでからのことで、冷蔵庫の中にお茶を仕舞うと布団に戻る。



「寝ないの」

「うん」

「寝たら」

「気が向いたらね」

「こっち来て」

「気が向いたらね」

「はやく」

「あとで」



それ以上は言って来なかった。

ベタベタすんの苦手なんだよ、と、言わないでおいた。

きっとまた起きたら怒られんだろうな。



それからタバコに火をつけると、換気扇の下で煙を吐いた。寝付きのいい嫁はすやすやと眠りに落ちる。









【例えば寝起きの時のこと】

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