第25話 家政"夫"と、友の優しさ

「コウタ!」

 

 聞き覚えのある声が、康太を呼んでいる。


「コウタ!!」


 振り返らずにいると、また呼ばれた。

 そして、後ろから抱きしめられた。


「康太、ごめん…………」


  ん?泣いてる?


 康太は抱きしめてきた人の方へ振り返る

「京介さん?泣いてるの?」


 京介の目は涙で潤んでいた。


「家に帰るとお前いなくて……

 母さんに聞いても知らないって言うし。

 心当たりを探そうかと思ったけど、心当たりのあるところすらわからなくて……

 

 俺、康太のこと何にも知らないんだ。


 康太が行きそうなところも、康太が苦しんでる時に相談する相手が誰かも何にも分からない。


 康太がもう帰ってこないかもしれないって思ったら苦しくて苦しくて……。

 ごめん、康太。ごめん俺、意地悪した。ごめん康太!

 

 頼む、帰ってきてくれ。

 康太!お願いだから帰ってきてくれ。

 お前はここにいたいかもしれないが、俺にはお前が必要なんだ!

 もう、頼まれても他のやつにプレゼントなんて持って行かない。

 だから、だから、なぁ、康太、俺のこと見捨てないでくれ……

 頼むよ……康太……」


赤ん坊のように泣きじゃくる京介の顔にそっと触れ、康太からキスをした。


「そんなに泣かないでください。京介さん。

 えっと……僕、確かに勝手に出てきたんですけど……

 ちゃんと帰るつもりで出て来てますよ?」

「え……?帰るつもりだったのか?」

「はい。確かにツラくて出ちゃったんでけど、そんな戻らないなんて……

 家があることが大事なのは十分わかってますから。

 あ、でも家政夫なのに仕事放って出てきたのはマズかったですよね……。

 仕事不履行で罰は受けないとですね……

 僕、クビになりますか?」

「お前をクビになんてするわけないだろ!」

「よかった。」

「本当に帰ってきてくれるのか?辛い思いをさせたのに?」

「はい。みなさんがいいなら。

 それに、僕も京介さんのそばにいたいんです。」

「よかったー……」


京介は安堵から足から崩れ落ちた。


「どう?仲直りできた?」


廊下の奥から海斗がやってきた。


「カイトー!テメェ!なんだよあのLINE!」

「京介さん?」


今までで聞いたことないほど、京介の言葉が悪い。


「ハァー……騙された。海斗からさっきLINEで、

 『康太さんはもうお前と別れてさくら園で生活したいって

  言ってるからしばらくうちで預かる』

 って送ってきたんだ。

 だから俺は焦って、全速力でここまで走ってきたんだよ」


「ウフフッ、京介さんが走るなんて。見たかったな」

「バカ言うなよ、もう勘弁してくれ。心臓がもたない……」


「アッハッハ!

 そんなに必死になるくらいなら最初から大事に守ってやれよ。

 ったくこれだから恋愛初心者は困るんだよなー。

 京介、イチャつくだけが恋愛じゃないんだぜ?

 さ、仲直り出来たんだったら、こんな子どもたちの施設の中でイチャついてないで帰ってくれ。

 子どもに変な刺激を与えないでくれ」


言うだけいって海斗はくるりと向きを変え廊下の奥へと歩いていく


「海斗!色々とありがとな、オレの親友がお前で本当に良かったって思ってる。じゃまたな!」


背中越しで京介からの、お礼を聞き、嬉しそうに、でもどこか寂しそうに海斗は去るのでした。


そして、京介と康太は無事にマンションへと帰っていった。

 

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