第18話 家政"夫"と爆弾兄妹

 先ほどまで愛されていたのに……愛してもらえたのに……


 康太は幸せが逃げていきそうで、不安でたまらない


13時過ぎ…

 和子は10階のリビングでトールペイントをしながら待っていた。

 京介は仕事部屋にこもっている。

 康太は来るであろう客人の準備をしていた。


14時過ぎ、ついに10階の呼び鈴が鳴る。

 和子は


「康太さん、私が玄関に行くからあなたは京ちゃんを呼んできて。すぐに応接室に来るようにと。必ず!必ず挨拶にこさせて頂戴」

「かしこまりました」


京介の部屋へと向かいながら康太は考えていた



  またこれで僕の幸せな時間は終わるんだな……



 仕事部屋へ入ると、京介は仕事をしていた。


「京介さん…お客様がいらっしゃいました…

 応接室までお願いします」


京介の顔も見ないでうつむいて伝える康太


「ん?なんでそんなに元気ない?どした?」


  午前まで俺の腕の中で幸せそうだったのにどうした

  何が今のあいだにあった?

  なぜ康太がこんな表情をしている

  なぜだ!!


 康太の両腕をつかみ顔を覗き込む。

 康太の元気がないのが何故なのかわからない


「どした?ん?康太、どした?」


 返事をしない康太は今にも泣きそうな顔をしている。

 優しく抱きしめ、頭をなでてあげる。

 康太は京介の手を振り払い、


「お客様です。よろしくお願いします」


急ぎ部屋から出る


  愛しあわなければよかった…

  優しくされなければよかった…

  そうしたら今こんなにつらくないのに…

  僕が愚かだった。

  最初からわかってたはずなのに……

  和子様に言われていたのに……

  僕はどうして、どうして幸せの時間はこんなに短いの?


康太の心は悲鳴をあげていた。


康太が去ったあとの京介は、何があったのかを考えていた。


  康太、震えてた。ベッドの中であんなにも笑顔だったのに

  今にも泣きそうな、倒れそうな顔をしていた……

  なぜだ?何があった?

  母さんに何か言われたのか?何を?

  まぁいい、とりあえず客人の相手をするか

  康太のことはそのあとだ。



 部屋から出て、応接室へ行くと和子の向かいに2人の人が座っていた。

 1人は男性で、とても逞しく鍛えあげられた体格の持ち主で、年齢は30手前だろうか?服がパツパツ気味である。


 そして、もう1人。

 髪は真っ黒く、胸の辺りまであるサラサラのストレートヘア。

 薄いピンクのワンピースが非常に似合う女性がそこにいた。

 どこからどうみても素敵なお嬢様のようだ。お嬢様は京介の存在を確認し立ち上がりお辞儀をしてきた。


「初めまして。高柳寧々と申します」

「初めまして。若林京介です」

 京介も笑顔で返す。



  今頃は京介さんはあの綺麗なお嬢様と……


 京介と高柳のお嬢様の姿を見たくない康太はキッチンからなかなか出てこない。待ちかねて和子が声をかけにきた。


「康太さん?何かあった?早くお茶をお出しして」

「すみません!すぐに!」


  何やってんだ俺は!仕事しろ!


和子に言われ慌てて紅茶とケーキをもって応接室へ入って行った。

「失礼します」

みんなの分を配り、部屋から出ようと立ち上がったその時、京介がすかさず捕まえ、京介の横に座らせた。

 みな一斉に驚くが京介はお構いなし。慌てて和子が説明する


「あ、このかたはね、うちに住み込みで働いてもらってる家政夫なんですよ。康太さんと言ってとてもよく働いてくださるんです」


「家政夫さん!男性は珍しいですね。僕は寧々の兄で十維とういと申します」

「家政夫の康太といいます。よろしくお願いします」


歯が白く、ワイシャツの白よりも目立つほどだ。顔もほりが深くいわゆるイケメンである。


「こうたさんって、とっても可愛らしい方ですね」

「本当にとても感じのいい家政夫さんなんですね」

高柳家の2人は康太を褒める。


「そんなそんな……」

照れる康太。その可愛い姿を京介はじっと見つめる。その視線を感じ康太はさらに顔を赤らめる。


 今回は康太を褒められても困る和子は、肝心の京介との話に切り替えるべく間を割って入ってきた。


「しかしお兄様の十維様も素敵な方ですね。とても力持ちに見えるわ。

 ところで寧々さん、一人暮らしはさぞ不安でしょう。

 これからはいつでもうちにいらしてくださいね!

 私は何かと出かけますが、京介はいつも家にいるので寧々さんの何かとお役に立てると思いますわ。何でもいいのよ、電池の変え方がわからないでもなんでも。

 ここにくればいつも人に会えると思うと、寂しいなんて思うこともないと思うから」


満面の笑みで和子は話す。さらに話しを続ける


「うちの京介さんはね、大学生の時に今の会社をおこしてね。

 たった数年で今の規模まで拡大したんです。

 無駄遣いとかもしないし、ギャンブルももちろんしません!

 仕事が趣味くらい没頭するのが難点ですが、いつも家にいてくれて変な虫も来ないんです。

 ね?安心でしょ?優良物件とおもいませんか?アッハッハ……」


 和子の話を聞きながら、康太はうつむき、手に力がこもっていく…


   なるほど、康太の不安はコレか。


 力の強張りを感じた京介は、みんなにバレないように康太の手を握ってきた。

 

  何も考えなくていい。心配しなくていい。

  俺がお前を好きなんだから……


康太の手を握りながら想いを送っていく。

 和子の思惑はみなわかったが、その上で十維が話し始める


「あの…今更なのですが、僕も妹の家に一緒に住んでもいいですか?」

和子が驚き返答する 


「あらお兄様、何か不都合でも?

 妹さんをうちで一人暮らしさせるに不安がおありなの?

 どうしましょう?是非ともお考えを伺いたいわ」

「お兄ちゃん?」


寧々も知らなかった様子。


「いえいえ、こちらのマンションがどうとかではないです。ただ単に僕もこのマンションを気に入ったというか……気になることが出来ただけですから。」


そう言うと十維は和子京介を見て、最後に康太の顔を笑顔で見た


「……ダメでしょうか?」


すると、京介が口を開く

「契約上、805号室は全く問題ありません。同居人が増えても、ペットを飼われても。ここは家として普通にお使いください。

 どうぞ自由にお過ごし下さい」

「ありがとう」


業務的に返事をしてあげたものの、今度は京介に不安がよぎる。


  なんだ?あの康太に対する笑顔はなんだ?

  "気になることが出来た"?それってまさか……

  


 安堵する十維。

 その時和子の携帯電話が鳴った。

「ちょっとだけ失礼します」

 和子が席を外す。

 今度は先程まで無口だった寧々が話し始める


「家政夫さん…えっと康太さんでしたかね?

 こちらに住み込みなられて長いんですか?」

「いえいえまだ3ヶ月ちょっとです」


小さな声で返事をする康太


「3ヶ月で家族のようにみなさんと仲良くされてるなんて凄い!

 康太さん、是非とも今度ゆっくりとお話しできませんか?

 教えて欲しいこととかたくさんあって…」

「僕も康太さんの話が聞きたいな、是非とも僕のいる時に話しをしましょう」


 この兄妹は2人して太陽のようにキラキラと輝いていた。


   なんだこの兄妹は!まさか2人して康太を狙うのか?

   康太はわたさないぞ!


 京介は気が気ではない。それは康太も同じで



   教えて欲しいことってなんだろう?

   やはり、京介さんのことや和子様のことだよな?

   綺麗で可愛らしくて、女性らしくて……

   敵わない……

   素敵すぎる……この人は完璧だ……


 康太の心の中は不安な気持ちがいっぱいで土砂降り状態だった。

京介はというと、闘争心に火がついた状態だった。

 爆弾かのような存在感を残して2人は帰っていったのでした。

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