みなと2

「主査は、土日は何をされていたのですか?」


梶岡さんがチャーハンをつつきながら、それとなく聞いてくる。


「今週は土曜日はリモート出勤だったんだよ。その後アシマネで集まってリモート飲み会をしたよ」


「うへー。大変ですね」


土曜の仕事が?それとも飲み会が?と聞こうと思ったが、面白い会話にならないそうだと思い、言うのをやめた。


「日曜日は何をされていたのですか?」


「うーん、誕生日のケーキを食べたかなー。それぐらい」


マッチングアプリの準備をしていたとは言えない。梶岡さんは口が軽い方ではないが、わざわざ部下の女性に話す内容ではない。まあ、これが小田くんだったとしても話さなかっただろうが。


「へー!ケーキですか。おひとりで?」


「あー。近所の子と一緒に食べたよ。隣に幼馴染が住んでいるだ。そこの子と」


「仲が良いんですね」


「うーん。そうね。そうかも」


「なんだか曖昧なお返事ですね」


正直母親の方とは仲が良いとかどうとかいうレベルではもうない。いろいろと苦難を乗り切ったせいで最早姉弟のような感じすらある。とはいえ、娘である美鈴とは仲が良いつもりではいる。そのため曖昧な返事になってしまった。


「まあ、付き合いだけは長いからね。幼馴染なんて好きとか嫌いとかもうないよ」


「そんなもんなんですか?…それでその子は女性なんですか?」


「まあ女性ではあるかな。けど18歳だからまったくそんな感じではないよ。高校生だしね」


「そんなもんなんですねー。あ!お誕生日おめでとうございます」


俺は内心失敗したと焦った。俺の年齢は30歳、それなのに幼馴染の娘が18歳である。そのことに対して、梶岡さんはたまたま違和感に気がつかなかった。本来であれば言うべきではなかった。幼馴染が4歳年上であるが、それでも世間一般から見れば偏見を持つものもいるだろう。


「…あ、誕生日ね。どうもありがとう?」


「そんな疑問に思わなくても普通の祝福の気持ちですよ」


「ありがとう?」


「頑なですね…。今日のお昼はおごらせてください。主査先輩にはいつもお世話になってるので」


「え、けど悪いからいいよ」


それに主査先輩ってテキトーな…。


「そういわずにおごらせてくださいよ」


「じゃあお言葉に甘えて」


「へへへ。ついでにランチビールもいっちゃいますか?午後の会議で発言に勢いがつくかもしれませんよ」


「調子に乗りすぎだな」


「主査こないだのランチ会で間違えてサングリアを頼んでたの見ましたよ」


「…気づいてたのか。正確には、お客様との会食の仲で先方の会長が間違えて注文したのを飲んだだけ」


70歳近いまじめなおばあさんであり、誤ってご注文されたと思われた。恥をかかせないように、先にサングリアを誤って飲んだふりをして、自分のカプチーノと変更した。


「なんとなく先方も主査が飲んじゃったの気づいてましたよ」


「…あ、そうなんだ」


「主査、ちょっとフラフラしててわかりやすかったです」


「…」


俺は梶岡さんから目をそらし、左手首につけた安いスマートウォッチを眺めた。お昼休みが半分すぎたことを知った。


「もう12時半だな。ちょっと食べる方に集中するわ」


俺はチャーハンのレンゲを改めて握り、絶品のあんかけカニチャーハンに集中した。


「はーい」


梶岡さんのどこか生暖かい視線を感じながら、旨いチャーハンをかきこんだ。

うまい。

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【毎週投稿】恋愛経験のないおじさんがこれから先の人生を考えてそろそろ結婚しようと努力する話 @Hajikas

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