第31話 那生の体験

 どうやらノゾミは何者かによる攻撃を受けている。


 この世界は、ナオが男性、あるいは女性の世界。ノゾミの母校がお茶の水、筑波大学附属の世界。これらが重なり合っているようだ。


 もしかして、もうすでにホモ・ファージが私たちと同じ能力を身につけたのだろうか。とにかく〈弥終いやはてやしろ〉に向かわないと。

 

 ナギ:希は寝床で軽く瞼を閉じた。意識を自分の内側に向けて精神を集中させる。

 足に浮遊感を感じ始め、意識が肉体から抜けていくかのように後ろにひっくり返り寝床と床を突き抜けて暗闇の世界へと落ちていった。


 **** * *  *  *   *


「下道さん! 下道さん!」

 

 女性の声が聞こえて那生なおは目を覚ました。

 パーソナルチェアから上半身を起こすと、しばらく自分の居場所を認識できず周りを見まわした。ナチュラルウッドの内装部屋。間違いない、日下部くさかべ先生のカウンセリングルームにいる。すこし落ち着いてきた。

 那生は長い時間、精神世界で疑似体験していたことを思い返した。


「先生、いままで僕はのぞみさんの意識で精神世界を疑似体験をしていました。〈弥終いやはてやしろ〉で見たユナやナギいう女性のことも覚えています。そして希さんがマスターと呼ぶ青年と一緒に修行をしたこともはっきり理解しました。そして日記の〝攻撃〟のことも…… 希さんは世界を破滅の運命から救おうとして…… すみません、一度にいろんな経験をしてまだ頭の中が整理できていなくて……」


「大丈夫です。全てわかっています。希さんのことを知ってもらうために、わたくしが貴方を異世界に誘導したのですから」

 

 時計を見るとクリニックにきてから、まだ十分ほどしか過ぎていない。

 那生が精神世界で過ごし時間は想像できないくらい長いものだった。


「先生は一体何者なのですか?それに、これから希さんはどうなるのでしょうか?」


「申し遅れました。わたくしはユナと申します。いまは日下部を憑人ホストにしています。希さんは、世界をΦファージによる脅威から救うため戦う決意しました。もしかしたら、この世界には戻れなくなるかもしれません」


「あなたは、あの〈弥終いやはてやしろ〉にいたユナさんなのですか? 信じがたいですが、先程の体験をしたあとでは理解できます。希さんは…… そうですか。自分で決めたのなら僕は希さんを信じます」


「これでわたくしも役目を果たせて安心です。そろそろお別れの時が近づいてきました」


「ありがとうございます。僕は希さんが戻ってこれることを願っています」

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