第24話 ユナとの約束

〝今から一万二千年前、ホモ・サピエンスはどんな文明を築いていたのですか?〟


〝それはわたくしにもはっきりとはわかりません。霊理力を使わずとも高度な文明を持っていたはずですが、今は何の痕跡も残されておりません〟


〝では、隕石の落下地点は分かりますか?〟


〝わたくしたちホモ・トランセンダの発祥の地、かつて『葦原中国あしはらのなかつくに』と呼ばれた東方の地です。貴女のいる世界では〝日本〟と呼ばれている国です〟


 そんな? 日本にその隕石が落下したっていうの! 

 

 そうか、だから真っ先に感染した一部の日本人はウイルスの弱毒化に成功し、自らの遺伝子に取り込んでホモ・トランセンダとして進化を果たした。そしてその末裔まつえいがユナでありナギたちなんだ。

 

 そうだとすると〈弥終いやはてやしろ〉が日本風文化を継承しているのも納得できる。

 私はこの世界の事情をおおよそ把握できた。

 日本に落下した隕石の記録を辿れば、私の時代より過去のことなのか、それとも未来のことなのか分かるかもしれない。

 

 その瞬間、私の意識が一点の曇りもなく澄み渡った。

 なぜ私が誕生したのか。なぜ私は夢や瞑想から多世界に干渉できるのか。神劔みつるぎのぞみとして生きるために与えられたもの。それは、破滅を運命付けられた世界を改変するために使うべき力なのだと。


〝ユナさん、私はナギちゃんを憑人ホストとしたのと同様にたくさんの人の人生を体験してきました。傍観したり、干渉することもありました。私は自分の世界を取り戻したい。この世界を救い、私の世界を取り戻すことは同じことだと思います。ユナさん、ナギちゃんがもう少し大きくなって精神世界を旅するようになったら、私を、神劔希を憑人ホストにするように仕向けてください。今私の存在を感じ取っている貴女なら、この精神経路トレースルートから私まで辿り着けるはずです〟


〝希さん、未来が変わってゆくのを感じます! これほどまでに異世界に干渉する力をお持ちだとは。ナギと貴女が強く結び付くことで世界が変わり始める……〟


 視界にノイズが走り始め不鮮明になっていく。私の精神の活動は限界が近付きつつある。能動的に異世界に干渉したことによって精神力の消耗が著しく激しくなったのだ。一度現実世界に戻らなくてはならない。


(あとはユナに任せよう)


〝ユナさん、そろそろ限界のようです。戻らねばなりません。ナギちゃんのこと、お願いします〟


〝承知いたしました。しかるべき時がきたら必ずナギを貴女と結びつけます!〟


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