第23話 未知の因子

〝今私がこの世界からホモ・ファージを全滅させたらどうなりますか?〟


〝それは大変危険なことです。ホモ・ファージが時空を超えて希さんの世界をも攻撃する能力を身につけかねません。のぞみさん、わたくしや貴女ができることは、恐らくホモ・ファージにもできてしまうのです。ですからわたくしたちはホモ・ファージに気付かれることなく、少しずつ世界の運命を改変しΦファージを無害化せねばなりません〟


〝ではホモ・ファージが誕生せず、またはΦが無害化した世界を真とすれば未来は変わり得ると〟


〝それについては確証はありません。ホモ・ファージによって分岐していった世界は新しく生まれ変わった未来へと辿り着くことができるかも知れません〟


〝そもそもホモ・ファージはどのようにして誕生したのでしょうか?〟


〝それは、今から一万二千年ほど前、宇宙から飛来した隕石に付着した未知の因子がヒトに感染しました。未知の因子は、それが発見されたホモ・サピエンスの時代にはΦ因子と呼ばれていました。そのΦは当初は毒性がなく無害だったのですが、それ故に気付かぬうちに地球上に蔓延していました。ヒトの体内で知らず知らずの内に進化していったΦは、やがて宿主であるヒトの精神に対して『腐悪性』を生じ、そしてヒトの遺伝子を取り込みホモ・ファージとして変性していったのです〟


〝ではホモ・ファージとは、元々ホモ・サピエンスだったのですか!?〟


〝今となっては見る影もありませんが、あれらはホモ・サピエンスの変性した成れの果てです。そのΦ因子はヒトの間で憎しみや怒りを増加させます。それはやがて争いや、時には殺し合いを招きます。これは見方を変えればホモ・サピエンスはΦに感染することで新しい力を得たとも言えるかもしれません。この世界の破滅にはおそらく、とても強力な『腐悪性』の力を持つホモ・ファージがいたのではないかと思います。ですから潜在的にはわたくしや希さんにできることはあれらもでき得るのです〟


〝そんな……〟

 

 思っていた以上に絶望的な状況だった。

 

 今の私ならこの世界のホモ・ファージを一掃できるという万能感を持っている。

 しかし、それを実行すればホモ・ファージも私の世界を攻撃する能力に覚醒してしまうリスクがあるという……。


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