第21話 謡女のユナ

 謡女うためのユナという女性は私の存在に気が付いている節がある。

 ナギたちを見守る私を見ていることが何度もあった。ユナは透き通るほどに白く、美しい癖のない長髪の持ち主で、肌も雪のように白い。白の巫女装束を着ており、うるるし塗りの黒い社殿とは対照的だ。希はまずこのユナとの接触を試みようと思った。


 奥の院本殿と廊下で繋がった離れが謡女の居室だった。

 それほど広くない閑散とした質素な部屋だ。床や柱は本殿と同じ漆塗りの漆黒の木材で造られている。〈弥終いやはてやしろ〉は日本の通常の神社とは構造的には全く異なっている。建築様式は似ているが、神道とは無関係なのだろうか。

 

 ユナは毎朝四時に起床して祭殿で三十分ほど朝の祈祷きとうをする。

 その後一度離れに戻って瞑想を始める。

 七時になると離れから出て最終候補の少女たちと触れ合う。

 正午になるとまた祭殿で三十分祈祷をする。

 また離れに戻って瞑想に入る。

 午後三時にまた表に出てきて少女たちと触れ合う。

 日没になると祭殿に行きやはり三十分ほど祈祷する。

 その後は午後十時頃までは他の女官と話をしたりして、自由に時間を過ごす。

 十時を過ぎると離れに戻り瞑想を繰り返し、そのまま就寝する。

 栄養バランスの取れた食事を三食きちんと食べている少女たちとは違いユナはまるで食事を摂らない。

 

 私は夜十時過ぎにユナが離れで一人になる頃合いを見計らって接触することにした。私がユナの背後を追うと、ユナは私に背を向けたままメッセージを発した。


〝ずっと貴女の存在は感じていました〟

 

 私の意識に直接言葉が響いてくる。紛れもない精神感応テレパシーだ。


〝私が何者だかお分かりですか?〟


〝この世界の方ではございませんね。中でゆっくりとお話ししましょう〟

 

 離れに入るとユナは戸を閉め、灯籠とうろうに火を灯し、部屋の中央で正座を始めた。


〝さぁ、お互いに色々と積もる話もございましょう〟

 

 ユナのクリスタルのようなアイスブルーの瞳が私を捉える。

 だが私は恐怖感やユナからの敵意は微塵みじんも感じなかった。

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