第17話 二回目の演習

「では、先生。失礼いたします」


「はい。また次回お待ちしております」

 

 ナギ:希は日下部くさかべの診療室から出ると、途端に緊張感も解け、冷静さも取り戻していった。ミツルギノゾミとしての過去の記憶も共有されている。


(そうか、この世界は大昔、まだ人類がホモ・サピエンスとして文明を営んでいた時代なのか。この世界の未来の延長線上に私たちの世界があるのか、それとも何処かで枝分かれした世界なのかは分からない。でも少なくとも二週間前の演習の時に視た世界とは連続性がある。あの時と同一の世界と考えてよさそうだ)


(私がこの世界でミツルギノゾミとして存在している理由、そしてノゾミとして何を成さなければならないのか。それを確かめなければならない)


 ナギ:希はこのあとは大学で講義を受けることになっている。

 ノゾミと記憶を共有できているナギ:希には何処に大学があるのか、今自分が何処にいるのかしっかりと把握できていた。東京都文京区本郷。日下部くさかべ診療所クリニックから徒歩圏内に大学の敷地キャンバスがある。ノゾミは東京帝國大學の理学部物理学科の生徒。睡眠障害の症状を抑えながら勉学に励み優秀な成績を修めている。量子力学的に形而上学けいしじょうがくを扱う量子形而上学を学んでいる。

 

(これほどまでに進んだ創造技術テクノロジーを持ちながら、ノゾミの世界のホモ・サピエンスの文明の痕跡は私たちの時代には一切残っていない。電子通信網ネットワーク化が進んだ結果、なにかの大変動によって一気に消失してしまったのだろうか。それともノゾミの世界はこのまま滅亡を迎えずに未来に続いていくのだろうか)


 ナギ:希は本郷敷地内にある理1号館中央棟に着くと『場の量子論Ⅰ』の講義を受けるために講義室に入った。少し早すぎたのかまだ誰もいない。


(今のうちに情報を集めよう)

 

 ナギ:希はノゾミの通信器具スマートフォンを手にして直近の出来事や、この世界の歴史を学習し始めた。この器具はナギの世界とは別の形で「集合知」のようなものを構築しようとしている。今はその黎明期といったところだろうか。世界中に分散させた情報と通信網でそれを再現しようとしているのか。

 まだ、ナギの意識だけで理解できる範囲は少なすぎた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る