第10話 見えない世界

「そしてこれも面白い話なのですが、宇宙に存在する物質と非物質の比率もおおよそ「5:95」だといわれています。具体的な言い方をすると、星や銀河とダーク系の比率もおおよそ「5:95」と似通っています。ここから考えることは、顕在意識だけが物質情報を脳で認識でき、潜在意識の活動は我々には認識できない。しかし潜在意識はこの実存の認識に重要な影響を与えていると考えられる。そんな主旨のことを教授は話していました」


「ダークマター? エネルギーですか?」


「はい。僕の研究分野の中では、この宇宙で観測できない物質や力の作用のことです。いまの科学では謎とされているのですが」


「そうですか……」

 

 那生は、日下部くさかべ先生の違和感が気にはなったが深くは追及しなかった。


「人間は量子や素粒子など物理世界の全体の「5%」の領域のしか認識できない。見えない世界のこと知りたければ潜在意識を研究しなければ答えに近づくことはできないだろう。これも教授の受け売りですけど。すみません、お話が長くなってしまいましたが、これが僕が精神の深層世界を知りたいと考えている理由です」 


「下道さんのお話はよくわかります。しかしこの世界の人達には目に見えない世界を理解するの難しいのでないでしょうか」


「それはわかっています。しかしまず先に僕自身がそれを知りたいのです。単純にいまはただそれだけの気持ちです。そして希さんの視ている世界のことも、もっと詳しく知りたいと思っています」



「承知いたしました」


 日下部先生の声がしたとき、那生は一瞬はっとした。

 その瞬間、先生は那生が座っているパーソナルチェアの前にいた。


「下道さんにはこれから希さんが感じたことと同じ体験してもらうことにしましょう。時間はそんなにかかりません。長々とお話するよりは良いでしょう」


「……あの、それはどういうことですか?」

 

 那生が言い終わる合間に、先生がすっと顔を寄せてきた。


「失礼します」

 

 日下部先生はそう言うと右手の人差し指の先をそっと那生の眉間に当てた。

 その途端、那生の視界が暗転し意識が広大な暗闇の世界に急降下していった。

 

「わたくしの声が聞こえますか?」


 日下部先生の声が至近距離から聞こえてくる。


「聞こえています、先生」

 

 自分の意識ではない誰かが返事をしている。

 いったいなにが起きているのか、那生にはすぐには理解できない。

 

 しかし那生はいま、自分とは違う意識を“のぞみ“だと感じていた。

 

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