第8話 意識の伝染
「特別な能力… ですか?」
「ええ。
「僕は彼女の日記にある異世界の話は読みましたが、他人の人生を疑似的体験できるというのは知りませんでした」
那生は、希が自分を日下部先生に会わせようとした理由が分かりかけてきた。
これは那生の大学での研究内容に大いに関係する話だった。
「希さんはおそらく集合的無意識にアクセスができるのでしょう。その時の脳は物凄いスピードで情報の整理を行っています。睡眠障害を持つ希さんは一日の大半がレム睡眠状態になり、この状態の脳は創造力が高まりエネルギーの消耗も激しくなります。希さんは随意的に自分の意識の指向を内面に向けることができ、内的世界にある感情や雑念を客観的に観察しているのです。そこで物語性のある他人の人生を垣間視ているのだと思います」
「これは僕にとっては大変興味深いお話です」
「そうですか。しかし、最近の希さんは夢の世界が現実を上回ることを心配していました」
「そのことが、彼女が意識不明になったことと関係があるのですか?」
「いえ、まだそこまではわかりません。入院先の医師からは、脳腫瘍の発作が原因と診断されています。希さんは、他人の人生のトレースをが始まると、次々と伝染しホストの数が指数関数的に増えていきます。すると脳の情報整理が追いつかなくなり脳機能がオーバーフローしてしまう可能性があります。それは大変危険なことです」
那生は希の症状が思いのほか深刻なのを知りしばらく黙り込んだ。
「よろしければ、ここで少し休憩しませんか? お茶でもお出しますので」
日下部先生はそう言うとサイドテーブルのティーポットに手をかけた。
「はい、ありがとうございます。いただきます。僕も少し頭を整理したかったところなので。それにこのチェアも座り心地がよくてリラックスできます」
そのあと那生は日下部先生が入れたハーブティーを飲みながらしばらく休憩した。
目を閉じながら、那生はこのあと希の日記の異世界のことや攻撃についての謎も分かるかもしれないとぼんやり考えていた。
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