25.後悔

「幽霊が視える、あいつらはいるんだってずっと言ってた。小学校低学年くらいまでは、周りから羨ましがられてたんだ。だけど中学年くらいからは段々と信じてくれる人は減っていって、高学年になった頃には、とうとう誰も信じてくれなくなった」


 ぽつり、ぽつり。

 まるで雨粒のように口から零れ落ちていく言葉は、水たまりを作るように私たちの間にとどまる。

 どこかに行くのを、諦めてしまった、そんな声たち。

 私はそれを一滴も逃さないように、じっと柳生くんを見つめていた。

 だって今私ができることはそれだけで、彼が求めているのもきっと、それだけだから。


「嘘つきだって言われることも、馬鹿にされることも我慢できなかったんだ。だから、視えるんだと主張し続けた。そこにいるんだと。からかってきてた奴らは、段々と面倒くさそうに反応するようになった。それである日、言われたんだ。そんなに言うなら、今夜学校で肝試しをするから、幽霊に言って俺たちを驚かせてみせろよって」


 柳生くんの膝の上に置かれた拳が、ギュッと強く強く握られる。

 たまに見かける柳のように、柳生くんの頭がどんどんうなだれていく。

 真っ黒な前髪に閉ざされて、表情は見えない。


「これはチャンスだと、俺は思った。だから、視えている幽霊、話したことのある幽霊、片っ端から声をかけて、それで、あいつらを……驚かせてやってくれって、頼んだんだ」


 震えるのを無理やり抑えたような、押しつぶした声。

 かすれたそれが、やすりのようにザラッとした感触を、心に残していく。


「浅はかだった。そんなこと、頼むべきじゃなかった。元は人間だったとしても、もう奴らは人間じゃない。向こうにとってはちょっと驚かせるだけの行為が、こちらにはそれこそ病院に運び込まれるようなレベルの怪我を負う行為になることだってある。そんなこともわからないような俺が、頼んじゃいけないことだった。あの夜の出来事は、死人が出なかったことが奇跡で、それだけが救いだったんだ」


 柳生くんが、静かに息を吸う。

 その音は、かすかに震えていた。


「俺が、クラスメイトを傷つけたんだ」


 ゆっくりと柳生くんの頭が上がる。

 下がった眉に、緩やかに上がった口角。

 ただただ静かな笑みに、胸がギュッと締め付けられる。


 彼越しに見た窓には、ポツリポツリと降り始めた雨粒が滑り落ちていった。

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