17.例えば、例えば

 例えば、アリサを選んで柳生くんを切り捨てたとする。


 私はきっと、今まで通りアリサとサラと一緒に笑顔で学校生活を過ごすのだろう。

 残りの約二年をそうやって過ごすことは、たぶん幸せだろうし、きっとこれが正解なんだ。

 だけどその代わり、柳生くんと話すことはもう二度とない。

 

 例えば、アリサを裏切って柳生くんと会話することを続けたとする。


 柳生くんと会話をするのは、なんだかんだ安心する。

 この人ならもしかしたら、灰色の感情を抱く私を、受け入れてくれるかもしれない。

 そんなことをつい考えてしまうくらいには。

 実際は、そんな度胸はないから伝えられるはずがないのだけれど。

 でも柳生くんを選べば、きっとアリサとの関係は変わってしまう。

 それも、あまり想像したくない方向に。


 アリサのことだから、悪口を言われる、なんてことはないだろう。

 きっと、なんだかんだサラのときのように呆れつつも受け入れてくれるはず。

 断言できないのは、昨日のあの冷たい声が頭から離れないから。

 あんな声、聞いたことがなかった。

 それは、私に向けられたことがないからだ。

 だけどその声を、あの視線を、アリサは柳生くんには向けるのだ。

 もしも、私が柳生くんとも話したいと言ったとして。

 アリサがあの声と視線を私に向けない保証なんて、どこにもない。


 どうしよう。

 どうしたらいいのだろう。


 そんなことを考えている間に、一限目、二限目と時は過ぎ、お昼休みになる。


「未結」


 名前を呼ばれて、勢いよく顔を上げる。

 アリサだ。

 あの冷たい声じゃない。

 それに対してずるい安堵が胸に広がっていく。


「サラは」

「購買部。先、いつもの教室行こう」

「あ、うん、そうだね」


 お弁当箱と水筒をバッグから取り出す。

 教室を出るとき、チラッと見れば柳生くんはもそもそと一人でお弁当を食べていた。

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