16.いつも通り

 おはようの挨拶と、軽やかな雑談。

 課題が終わらないという悲鳴と、笑い声。


 いつも通りの朝。

 少し違うのは、寝不足で欠伸が止まらない私だけ。

 柳生くんはいつも通り机に伏せているし、サラがそんな彼に挨拶をして、アリサは呆れた表情をしている。

 いつも通りだ、本当に。


 流石にサラや柳生くんがいるところで、アリサに謝罪できるわけがなく。

 逆にアリサやサラがいるところで、柳生くんにお礼を言えるわけもない。

 だからこそ、早めに行ってどちらか先に来たほうに謝罪やお礼をしようと思っていた。

 それなのに、そういう日に限ってアリサはサラと一緒に登校してくるし、柳生くんは二人よりあとに登校してきた。

 神様がいるのだとしたら、相当嫌われているのかもしれない。

 片方を呼び出すのも、それはそれで、という感じだし、本当にどうすればいいのだろう。


「そういえば、未結、今日早いね」

「あー、うん、ちょっと早く目が覚めちゃったから」

「へー、えらーい! サラだったら二度寝しちゃうかも」


 ケラケラ、と笑うサラにつられて、私も笑う。


「サラは二度寝しないようにしないといけないんじゃない? この間それで遅刻したでしょ」

「アハハ、それさえなければ皆勤賞取れたかもだけど、しょうがない! 三大欲求の一つなんだよ? 眠気には抗えないもの!」

「それが許されるのは休みの日だけだよ、まったくもう」

「ママが厳しい」

「ママじゃないから!」


 二人の流れるようなやりとりを、なんだか少し羨ましい気持ちで見守る。

 サラはわかる。

 昨日なにがあったのか、彼女は知らないから。

 だけど、どうしてアリサは普段通りに振る舞えるのだろう。

 それが、彼女の普通だから、なのだろうか。


 柳生くんとは、会話をしない、させないことが。


 冷たいものが背中を駆け上がっていく。

 まるでそれは、仲間はずれにすることが当然だと言うようで。

 このままもしも、私がアリサと一緒にいることにしたら、私は柳生くんを切り捨てることになるんだ。

 命の、恩人を。


「……」


 笑顔が強張ったのが、自分でわかる。

 瞬間、アリサと目が合った。


 いけない。


 そう思った。

 だから、私は目をそらした。


 チャイムが鳴る。

 普段は鳴ってほしくないと思うのに、今日ばかりは助かったと思った。


 なにか言いたげな視線を感じたけれど、私はそれに気づかないふりをした。

 アリサと一緒にいたいけど、でも柳生くんのことも気になる私には、もうどうしたらいいのかわからなかったから。

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