第13話

 空は、なにかしていなければ、この起こりすぎた怪奇現象で混乱してしまいそうだった。

 少女を抱え、浜へと無心で泳いでいく。


 空は、少女の口や鼻に海水が入らないように気をつけながら、前へと進んだ。


「ええと、あなたはどちらさまですか?」


 少女は、抱えられながら空に聞く。


「それ今じゃなきゃだめ?」


 空は、少女に極力少女の顔に海水がかからないように泳ぐので精一杯だったため、受け答えできる状態ではなかった。

それに少女は気が付き、即座に「すみません」と謝る。


「この黒い髪と黒い目。ワビトの方でしょうか。しかし、私を助ける理由なんて。それとも、グレイアース家?いや、あそこの家には男の人はいなかったはず・・・」


 少女は、元いた世界での黒髪黒目の人物を少年を知り合いと照合しようとしていたが、当然誰も思い当たらなかった。


(追放されたばかりの私を助けるなんて物好きもいるのね)


 少女は、悲しそうに苦笑して空を見る。


 空が必死に自分に気遣いながら、助けようとしてくれる姿が目に入った。


 それを見て、ふと昔の婚約者の・・・いや、元婚約者の姿を連想してしまう。


 少女の目から、涙が溢れ出した。


「え?え?どうしたの?」


 空は、少女が泣いていることに気が付き、ようやく着いたギリギリ足のつく浅瀬で立つ。


「潮が目に入っただけです。」


 そう言って、少女は涙を拭き浅瀬に立った。


「そ、そうか」


 空は、少女がそのことを聞かれたくないことなのだと察知し、聞かないことにした。

 今は、情報が一つでも多くほしい状況だが、少年もこんな事が起こる前に起こった出来事など誰にも言いたくない。

 とりあえず少女の身に悲劇が起こったことを悟り、それ以上は聞かないことにした。


 空と少女は、海の中にある水分を十分に吸った柔らかい砂を踏みつけ歩き出す。

 たまに踏みつける貝に痛みを感じ、水高が膝の下の近くまでしかない浅瀬に到達したことに、安堵した。


 すると、二人にまだ6月だったため若干の寒さが体中を駆け巡る。


 二人は、寒さに耐え、足を引っ張る海水をうっとおしく感じながら進む。


「うわ、制服ビショビショ」


 海から出たばかりのため衣服が吸った海水が重力で二人の体力を奪っていく。

 少女は、海面が膝下のあたりまで来たところを見計らい。


「助けていただきありがとうございます」


 少女が、歩きながら両手で濡れているスカートを押さえとても丁寧に辞儀してくる。


 空は、少女が丁寧にお辞儀しながらじわじわと進んでくる奇妙な光景に吹いてしまった。


「なにか、おかしかったですか?」

「いや、っ別にそれでもっ、どうやってんのそれっ」


 空は笑いながら、少女は首を傾げながら海から出る。


「とりあえず、状況を確認したいけど、風呂が先だなこれ。携帯持ってる?って・・・」


 空は、ポッケの中に携帯を入れっぱなしにしていたことに気づく。


 何度も電源ボタンを押してみたがピクリとも反応しない。


(終わったな)

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