第四章

第四章 ①

 キィィィ............

 そんな音とともに、俺を揺らしていた電車はゆっくりと停車した。

 プシュゥ......

 そして停車音から間髪入れずに、扉が開く音が聞こえてきた。

 俺は長時間座っていて少し痛めた腰を擦りながら立ち上がり、周りに人の目がないことをいいことに、思いっきり伸びをした。

 そして、運賃箱に俺が乗ってきた分の代金をきっちり入れる。

 .........しかし、こんなザルな物だったら無賃乗車が簡単にできてしまうのではないだろうかと、俺は少し心配になる。

 まあ、今はそんなことは置いておいて。

 電車が発車してしまわぬうちに、俺は扉をくぐって外に出た。十数秒経つと、電車は次の駅へと向かうために走り去っていった。

 電車が走り始めたことによって景色が三百六十度見渡せるようになったので、俺はくるりと身体ごと周囲を見渡す。そしてそこにあったのは......

 ......畑、畑、畑、たまに民家。

 本当にテレビでしか見たことのないような光景を、俺は目の当たりにしていた。

 そしてその光景の中には、今日俺が向かうであろう屋敷と言っても差し支えないほどの大きさを持つ建物もあった。

 俺は一応母さんに書いてもらった地図をポケットから取り出し、広げる。

 折り紙付きの方向音痴な俺は、地図アプリを見てもちんぷんかんぷんなため、初めて来るような場所だと、このように専用の地図を書いてもらわなければならない。

 .........まあ、でも。


「今回は必要ないだろうなぁ......」 


 俺はそう小声でつぶやきながら駅舎から出て、大きな大きな屋敷へと向かい始めた。



 サクサクと音を立てながら、代わり映えのしない景色を歩き続ける。

 だけど、駅舎から歩くこと約二十分。ようやくそれにも終わりが見えてきた。

 遠くから見ても十二分に大きかった屋敷だが、近づくにつれて、その大きさがより強調される。屋敷を取り囲む塀でさえかなりの高さを持っており、その迫力には高校生にもなる俺ですら気圧されるほどであった。

 しかし、屋敷の見掛けだけでビビっていては流石に情けなさ過ぎる。

 俺は少し緊張しながらも、インターホンを押す。

 しかし、その緊張は、今からこの屋敷に入って母さんのお兄さんに会うことなのか、それとも『環姓の言い伝え』について知るのが怖いのか、果たしてどっちなのだろうか。

 まあ、両方なのには間違いないのだろうけど、後者も前者も同じくらいの割合で緊張しているような気がする。本来俺は後者の方に緊張しないといけないはずなのに。

 と、そんなことを考えていると、固く閉ざされていた木の扉がゆっくりと開かれる。

 ごくり、と俺は固唾を呑んだ。

 さて、どんな人なんだろうか。見た目は怖くてもいいから、せめて話しやすそうな人だといいなぁ.........。

 俺はそう願いながら、されどそれを顔や態度には出すまいと気を張りながら、扉が開き切るのを待った。

 そして、ついに扉は開く。


「やぁ、君が詩遠君で間違いないね?」

「............ぇ?」


 完全に開き切った扉の向こうにいたのは、俺を柔らかい笑顔で俺を迎え入れてくれる一人の好青年だった。

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