5 midnight

 チカリと、目の端に何かが映った。オレンジとピンクと紫と、奇抜だけど毒々しくはない、不思議な色合い。しかもそれぐらいしか見えなかったのに、何故だかそれを、汽車だと思った。確信した。それもまた不思議だった。

 しかし最大の問題は、異物が視界を掠めたことで、ターゲットへの集中が途切れたこと。

 発砲した後もなお、スコープから目を離せずにいる祇園。一向に芹沢の異変が見られない。まさか、ミスショット……?

 すぐに双眼鏡に持ち直し、穴が空かんばかりに見入る。そして理解した。

 屋上との一直線上にある看板の照明が、宙吊りなって揺れている。そこに弾が当たってしまったのだろう。しかもそれは、絶えず風にあおられ、固定具はたわみ、どんどんどんどん振れ幅を大きくしていく。

 ヤバい、落ちる。

 心臓が波打った。俺のせいで、下にいる誰かが怪我をするかもしれない。無関係の人間を巻き込んで、命さえも奪ってしまうかもしれない。怖い、やめろ、そんなの嫌だ!!

 祇園がライフルをひったくる。これで、芹沢を狙撃する最良地点を見失った。だが彼は構わずリロードして、再び狙撃体勢に入る。

 万一固定が外れたときには、力ずくでも落下の軌道を変えてやる。クッション性のある街路樹か植え込み、なければ壁に突っ込ませて、せめて人への直撃だけでも避けなくては。

 はやる気持ちを必死に抑え、スコープを刮目する。だがそんな時、ある疑念が浮かんでしまった 。

 冷静になってみろ。もし、もしこのまま、顔も知らない他人に気を取られて、沙羅の復讐を果たせないなんてことになったら、俺は――

 直後、照明の最後の留め金が、力尽きた。

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