リフレクト3④


 渚は遠巻きに見守るしかなくなって、徒然、物思いにふける。

 考えてしまうのはやはり、夢を見ることの現実。理想にしろ願望にしろ、それを完璧に叶えることは、すこぶる難しい。だから、何かに本気になることを諦め、そうすること自体を恥と感じるようになってしまう。

 それが大人になるということだ、と言う人もいるけれど、そんなカッコ悪いものになるために、私は勉強をしているわけじゃない。努力は報われないなんて言いたくない。何事もあっさり挫折して、惰性で時間を無駄遣いする人を、正しかったとも言いたくない。

 ああ、それこそ理想で願望だ。意地になっているのかもしれない。今この胸の内にたぎる反抗心は、価値のある情熱だろうか。自分の意志として尊重すべきだろうか。吐露すべきだろうか。

 測りかねる。何一つ、分からない。

 それでも。

 人間臭く生きようとするロマンチストを、愚か者だと切り捨てたくない。

「お願いがあります」

 二人が私を振り返る。

「ラスサビの歌詞を書き直させてくれませんか。さっきの夢の話、自分なりに答えを出したいんです。もちろん意地を張って真実を見誤っちゃいけないけど、今のままじゃ、どうしても息苦しくて……」

 迷いを全面に出した瞳に、律は何度もうなずき返した。日向は一瞬視線を落とした後、控えめに渚を見上げる。

「俺は、それに答えなんて無いと思ってるよ。現実とか将来とか考えられないぐらい音楽が好き。だから、毎日歌ってギターを弾いてる。それだけ。夢を追う理由が、どうしても欲しいわけじゃないんだ」

 確かに、こんなあがきは無駄かもしれない。エゴかもしれない。

「関係ないんです。それを見出すことが、私の理想になっちゃたから」

 私は、なぜか笑顔を咲かせていた。日向がはっと気付く。そうして、柔らかく目尻を垂らした。

「分かった。ラスサビが完成するまでの間は、二番までの修正を最優先しておく。制作の遅れとかそんなのは気にしなくていいから」

「ただ、期日はある」

 律が声を低める。渚と日向の注目を一身に浴びる彼。

「今度七夕祭りをやる商店街に、ライブ場所を確保した。いつもは閑散とした所だけど、その日だけは出店が並んで、遠方からもたくさん人が来るんだ。新曲のお披露目は、絶対にそこでやりたい」

 いけるか、と律は、私と日向の肩に手を添えた。口元を引き締める日向。私は絡ませていた手を解き、強く握り締めた。

「頑張ります」

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