全裸で実家を追い出された少女が、友達の家に居候したり、新しいお仕事を考えたりする、異世界ガールズスローライフ

古城ろっく@感想大感謝祭!!

1

プロローグ

 ここは、魔術も科学も発展しなかった世界。いや、これから発展していく世界と言うべきか――

 まるで中世ヨーロッパのような街並みを、華やかな服装の人々がぽつりぽつりと歩く。そんな中、たまに馬車や牛車などが轟音を立てて走っていく様は、現代日本の人間が見たら感動するだろう。

 もっとも、この世界の住人にしてみれば珍しくもなんともないのだが。


 そんな中、一人の少女がとても苦しそうに歩いていた。

 簡素な麻色のワンピースに身を包み、頭巾を目深にかぶった彼女は、コツン……コツン……と一歩一歩、重そうな足取りで歩く。

 その革靴が歩きにくいわけでもないだろうし、タイル敷きの路面が特に歩きにくいわけでもない。病気なのかと問われれば……まあ、身体的には健康な少女である。としか――


「ああああああ、何で歩くのはこんなに面倒くさいんだー!!」


 突然呻きだしたかと思ったら、急に大声を出して叫ぶ少女。その奇行に、周囲の人たちがザワっと引いた。

 ただ、その少女はそんな視線を一切気にせず、こともあろうか地べたに座り込んでしまう。


「ふん! どうせなら、座ったまま歩ければいいのに……」


 滅茶苦茶なことを言い出す彼女は、しかし次の瞬間、ひらめいたとばかりに手のひらを打った。そして今までの気だるさが嘘のように、ぴょんと跳んで立ち上がる。


「そうだ。座ったまま歩けばいいんだ。何も馬車だけの特権ではあるまい。馬に出来て人間に出来ぬものか」


 そう言いながら、彼女は背筋をピンと伸ばし、スカートを持ち上げて走っていく。何を思いついたのかは不明だが、さきほどまで歩くのも辛そうだった彼女の面影はもうない。春の空よりも移り変わりが激しい。

 まあ、あれだ。


 この物語は、極限まで面倒くさがりなくせに、面倒を避けるためならどんな面倒ごともいとわない彼女――ドライジーネが、巨万の富を築くまでの物語である。

 あるいは、彼女に振り回される周囲の人間や、彼女に助けられた人々が、それぞれの視点から彼女を語る物語である。

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