異世界から異議あり!

鋼鉄の羽蛍

始まりにして終わりはここにある

 世界は異世界転生と言う名の暴虐で溢れ返る。

 科学文明に彩られた世界線を牛耳る神々は、挙って謎の力〈ウリアゲ〉会得に乗り出していた。

 

 その手段として、異世界と銘打った並行世界へ次々転生者を送り込んでいた。


 テンプレと言われるダンプやら何やらに轢かれる所から始まり、異世界へ転生するや、元の世界とは似ても似つかぬ容姿で世界を跋扈する元普通の人。彼らには元の人生があったのだろうが、大方そこで過酷な生活から逃げ出した者が大半である。


 中には確たる志を胸に異世界で心機一転を試みる者もいたが、後から後から転生して来る者はほぼ、前者に該当していたのだ。


「さて、次はいかな転生者を送ればウリアゲが上がると思う? 」


「あちらでの職種は勇者に魔王に治癒術師に魔物と、すでに出し飽きた感があるな。」


 頭にウリアゲしか刻まれていない神々は、口々に己が案を提示する。しかしそれは致し方なき事でもあった。


 科学文明が席巻する世界線では、すでに自然へ天変地異クラスの異常が巻き起こり、文明発展を追い過ぎた結果、そこに生まれるマイナスを疎かにしたため世界で矛盾と不条理が吹き出しているのだ。


 そんな世界線から異世界転生者を送り込む神々にとって、なくてはならない物……それは〈カネ〉である。



 詰まる所、カネの集まる力溜まりが〈ウリアゲ〉という世界を構築する根源でもあった。



 それはある日神々が、さらなる異世界転生者を送り込まんと、平行世界へ力を流した時に訪れる。彼らの力が急に途絶え、あろう事か転生させた者達が容姿は元のまま、次々送り返されて来たのだ。


「何だっ!? 異世界へ送った者が次々と! これは一体どういう――」


 神々は慌てふためいた。

 彼らのウリアゲに於ける源が元の世界へと送り返され、彼らが求めていたウハウハ待ったなしのウリアゲが恐ろしい勢いで低下していたのだ。


「おのれ、我らのウリアゲ力へ干渉するとは! 並行世界の状況を確認して来る! 」


「うむ、頼んだ! 我らのウリアゲはそなたに懸かっているっ! 」


 一人の神が名乗りを上げ、その手に神々の武装である剣を持ち奮起する。そしてそのまま異世界へ、まさかの転生者を送り込む神が乗り込む顛末と相成った。


 だが――


「やあやあワレこそは、異世界転生者を統べる者なり!ワレらがウリアゲの邪魔立てするのは――」


 そこは次元の門。科学文明社会と異世界とを並行的に結ぶ世界の狭間。名乗りを上げた神は、意気揚々とそこへと乗り込んだ。


「おう……あんさんか。ウチんとこへ、あのけったいな転生者言うんを送りつけて来てるんは。」


「ワレこそ……は……あ、はい。」


 そこに訪れたるは魔神。憤怒の形相と、鋼鉄の如く煌めく物質的な肉体を持ち、身長を遥かに上回る神の力宿りし斬馬刀を軽々担ぐ……魔神。その一薙ぎで山々を軽々消し飛ばす事も叶う、それこそ科学世界で言い伝わる伝承の神々に準える破壊神そのものであった。


「言わせてもらうが、ウチらの世界には迷惑なんじゃ。ウチらの世界にはルールもあり、僅かながら文明も存在する。じゃがの、それをバカみたいに百年単位で急速に発展させるなんて事はせん。」

「文明とは、その世界で生きる民の心の豊かさがあって初めて、揺るがぬ価値が付くモンじゃ。それを分けの分からん転生者だのが今、全てを根刮ぎ破壊して行きおる。故にワシが直々にワレらへと意義を申し立てに参った。返答は如何に? 」


 破壊神さながらの魔神登場で、息巻いた神が震え上がる。当然であった。

 異世界へ転生者を送り込み続けた神は、何のことはないただの人間の延長上。しかし生物学的には、弱肉強食に於いてあらゆる動物より弱く、逃げ惑うしかなかった種族ひと。けれど文明を手に入れて成り上がった、生態系の頂点をうたう最弱者であるのだ。


「すんません。異世界転生は今後、二度と行いません。ほんとに申し訳ないです。」


 上司にひれ伏すサラリーマンの如く、勢いを失った神は縮こまり、それを見た魔神は鼻息荒いまま吐き捨てた。


「次にこんなふざけた真似した日にゃ、ワレらの世界へカチコミにいくでの。努々ゆめゆめ忘れんようにしとけ? 」


 最後にフンッ!と鼻息でヒョロい神を吹き飛ばすと……魔神は悠々と己が生み出した世界へと帰って行く。


 大自然に恵まれ、エルフにドワーフがのびのび暮らし、争いもなく心も文化も質素ながら栄えた永劫の都へと――




 それから暫くして、血相を変えて戻って来た神の言葉を聞くや残る神々も震え上がり……はれて異世界は平和を享受し、科学文明社会へと戻された異世界転生者は、チートも何もなくなった己の人生を、惨めに細々と生き永らえるのであった。




――始まってもいないのに、完!!――

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