15 純白の手袋

 ふと気がつくとペティはふかふかなソファーの上に横たわっていました。


「あ、目を覚ましたかい?」


 ペティを心配そうにのぞき込んでいたのは、やわらかな青い目に美しいブロンドの髪が印象的な青年でした。顔の半分まで覆うほどのレースの胸飾りで着飾っています。


「こ、ここは……どこ? 私はいったい……」

「ここは僕の秘密の隠し部屋さ。そしてきみは舞踏会で倒れて、僕がここまで運ばせたんだ」

「あっ……」


 ペティは思い出しました。

 舞踏会で二人の義姉に会って、パニックに陥った彼女は出口と間違えてカーテンのすぐ後ろにあった壁におでこをぶつけて気を失ってしまっていたのです。

 額に手を当てると、確かにじんじんと痛みが残っています。

  

「きみ、ダンスはあんなに素敵なのに、意外とそそっかしいところがあるんだね」

「ぜ、ぜんぶ見ていたんですか?」

「うん、見ていた。この窓から全部ね」


 小窓を指さして青年はころころと笑いました。窓からは舞踏会の様子が見え、優雅な音楽が壁を越えて程良い音量で聞こえてきます。


「まあっ」

 ペティの頬が真っ赤に染まりました。

 あんなヤケクソな踊りと、頭から壁に突っ込むところを彼に見られていたのです。


「それで、貴方はこんな私を笑いものにしようと、ここに私を運んで来たということでしょうか?」

「とんでもない!」


 青年はまた笑いました。

 笑った弾みにレースの首飾りがわずかにずれて、それを指で持ち上げながら。


「きみの踊っている姿を見ているとつい近くで見たくなってしまってね。ねえ、ここでもう一度踊ってくれないかい?」

「えっ!? ……い、嫌です」

「どうして?」

「恥ずかしいからよ! だって、私のダンスが舞踏会には相応しくないってことぐらい、私にも分かるんですから!」


 青年はレースの首飾りを手で押さえながら、しばらく考え事をするような仕草をしています。

 そして、ハッと思い立ったように片膝を付き、ペティに向けて手を差し出しました。


「お嬢様……僕と一緒に踊ってくれませんか?」


 青年の純白な手袋をじっと見つめたまま、ペティは固まってしまいました。

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