第8話:神の使いアグヌス
神殿を出て、ケルト達はギルドに戻るべく大通りを歩いて行く。
この国では獣人はさして珍しくはないが、ケルトも、そして見た目は普通の人間であるヴェロニカ達も、全員が容姿端麗で目立つ為、歩いていると嫌でも衆目を集めてしまう。
しかしそんなことは気にしないとばかりに三人は堂々と歩いていた。
「しかし、そいつ何なんだろ……スキルで出てきたわけでもなさそうだし。非常食?」
ケルトがよだれを垂らしながら、黄金色の仔羊を見つめる。
「……非常食ではありませんよ。これだから地獄の駄犬は困ります」
「羊が喋った!!」
全員が驚いたような顔になる中、なぜか後ろ脚だけで立つその仔羊が満足そうに頷いた。
「私は、ハゲジジイ……じゃなかったルミアス様の使いであるアグヌスです! このたびは、セト様及び駄犬共のサポートの為に下界してきました。いやあ、そこの駄犬だけじゃ何とも心許ないですからね~」
少年のような声で、器用に前脚を胸の前で組む仔羊――アグヌスを見て、ケルトが右手に赤黒い雷を、左手に青白い雷光を纏わせ、殴りかかった。
「駄犬駄犬言うな! 天国と地獄、両方の雷でこんがり焼いて食ってやるわよモコモコ!」
「はい、バリア~――〝汝、神に触れるべからず〟」
詠唱と共にアグヌスの周囲に結界が張られ、ケルトによる二色の雷撃を跳ね返す。
「こいつ!」
「結界なんて私の前では無意味ですよ? 〝魔弾装填〟――〝徹界弾〟」
ヴェロニカがいつの間にかゴツくなった黒いリボルバー銃に魔力で銃弾を装填して、発射。轟音と共に、結界を破ることに特化した銃弾がアグヌスへと飛来。
「おっとそれはマズい。ならば避けるだけですね~」
結界が魔弾によって破壊されると同時に、アグヌスが見た目よりもずっと機敏な動きで銃弾を躱した。
「なら躱せない範囲……燃やせばいい……〝逆巻くブレイズ〟」
ロスカが火属性と風属性を複合させた極大範囲魔術を放とうとしたところで、セトが間に割って入る。
「みんな、ここ街中だってば!」
「……ごめんなさい」
熱風に煽られながら叫ぶセトを見て、ロスカが謝罪する。風が止むと、セトはアグヌスを抱き上げた。
「君がルミアス様の使いなのは分かったけども、ケルト達は仲間なんだから仲良く、ね?」
「……向こうから殴りかかってきたのですが?」
不服そうにそう言うアグヌスを見て、セトがため息をついた。
「君が彼女達を挑発するからでしょ」
「解釈の違いかと思いますが……セト様に言われたのなら仕方ありません。非を認めましょう」
「あんたねえ……」
ケルトが呆れたような声を上げるが、アグヌスは平然としている。
「とにかく、これからセト様達の冒険のサポートを致しますので、よろしくお願いしますね。あ、攻撃能力は一切なく、回復及び防御特化なのでそこんとこよろしくです」
「サポートね……僕には監視役にしか見えないけど……まあいいや」
「ははは……監視役だなんてそんな……」
目にも留まらぬ速さで目を逸らすアグヌスを見て、あながち間違った指摘でないことが分かり、セトは何回目になるか分からないため息をついた。
「羊飼いだから、そりゃあ羊が側にいるは間違っていないけども……」
牧羊犬がケルベロスで、羊は神の使い。どうにも、自分が想像した羊飼いとは違う方向に向かっているような気が、今さらながらしてきたセトだった。
「気を取り直してギルドに戻ろうか。でも、三人とも早速新ジョブで得たスキルを使っていたね」
「ふん、ルミアスの奴も中々に気が利くわよ。元々地獄の雷を操る私に、雷神の力を与えるなんてね。おかげで色々出来そうで面白いわ」
「私の方は、リボルバー銃が強化されたおかげで、様々な用途の魔弾を撃てるようになりました。サポートから火力支援までなんでもできますし、この銃以外も色々ありますので、お楽しみに」
「……属性魔術……混ぜたら強い」
三人の言葉にセトが首肯すると共に、少しだけ声のトーンを下げた。
「あとは、僕のスキルだけど……なんか凄くやばそうな力だからあんまり使いたくないんだよね……」
〝混沌払い〟……あらゆる者を滅するとかいう物騒な説明を知った時、セトはじんわりと嫌な汗を掻いた。
「あたし達がいればセトの出番なんてないんだから、どっしり後ろであたし達の活躍を見ていればいいわよ」
「そうだね。でもいざとなったら僕も戦わないと」
「まあ、危なくなったら私が守りますので御心配なく~」
「ありがとうアグヌス」
そうしてギルドに戻ったセトが受付嬢にジョブを取得したことを伝えると、彼女は驚いたような顔を浮かべた。
「どれも聞いた事のないジョブばかりです……ですが、確かにジョブとして取得されていますね。かしこまりました、それではFランクの依頼をご紹介いたします」
受付嬢が、いくつかの依頼が書かれたリストをセトへと差し出した。
「見せて見せて!」
ケルトが興味津々とばかりにセトに身体をくっつけて覗き込んでくる。彼は右手にケルトの小振りながらも形の良い胸が当たり、赤面する。しかし、それを振り払う気もまたなかった。
「どれも、楽勝そうね!
「一応、一つのパーティにつき一度に受けられる依頼は最大で三件までなんだよケルト」
「そうなの? まどろっこしいわね。じゃあお姉さん、この中で一番貢献ポイント稼げそうなのは?」
ケルトの言葉に、受付嬢が一つの依頼を指差した。
それは、王都の地下に広がる地下迷宮の調査依頼だった。
「こちらはルミア教からの緊急依頼となっており、すぐに向かっていただける冒険者の方には特別ポイントが付与されます。なんでも迷宮に浄化に向かった聖女が行方不明になったとか」
「へえ、じゃあ一つはこれにしましょう。聖女を助けるのはしゃくだけども」
「そう言わずに。それと、残りの依頼は、地下迷宮でこなせそうなものにしよう。例えば、このダンジョンリザードの革の納品依頼とか」
「なるほど、確かにそうすれば効率的ですね」
セトの背後から覗き込んだヴェロニカがそう言って頷いた。その大きな胸が背中に当たり、セトが硬直する。
「……むっ」
カウンターに届かないロスカが自分の平べったい胸を見て不服そうな表情を浮かべると、ギュッとセトの左手を握った。
「セト様はモテモテですね~」
それを見ていたアグヌスがしみじみそう呟いたのだった。
そうして地下迷宮の依頼を三つ受けたセト達は早速、出掛けることにしたのだった。
「聖女様も心配だし早速行こう……と言いたいところだけど、まずは道具屋に寄ろうか」
「はえ? すぐに行きましょうよ」
「準備が少しだけあるんだよ。流石に手ぶらで迷宮に潜るわけにいかないでしょ?」
「それもそうね! 早速道具屋にいきましょう! あたしランタン買いたい!」
ケルトに手を引っ張られながらギルドをセト達が出て行く。
それを、建物の陰から見ている男がいた。
「セトの野郎が……絶対に許さねえ……ふん、地下迷宮に行くなら好都合だ……そこでどっちが上かはっきりさせてやる!」
怒りの表情のままその男――ゴリアスはそう呟くと、足早に去っていった。
こうしてセト達のパーティ【
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