第6話:降臨せし神
「随分と大袈裟な神殿ね」
王都の東部にあるザウマ大神殿へとやってきセト達の目の前には見上げると首が痛くなるほど巨大な白亜の神殿が建っていた。
「この大陸で一番信者の多い、ルミア教の聖地だからね」
「……ルミア教?」
「うん。主神ルミアス様を信仰する教えだよ」
その言葉を聞いてケルト達が顔を見合わせた。
「姉さん、マズイのでは? あのクソジジイが関わっているとなると……」
「……よねえ」
「絶対に……ちょっかいかけてくる……」
「え、え、なんの話?」
セトが三人の話についていけず、首を傾げる。
「ねえ、セト。他にジョブを取得できる場所はないの?」
「へ? いやここじゃないと無理だよ。もしくは各領地にある神殿だけども……ここから行くには遠すぎる」
「それだったらどこの行っても同じね……うーん、でもジョブは必要なのよねえ」
「どうしたの? なにか問題でもあるの?」
「それが……大有りなんです」
ヴェロニカがため息をついてそう答えた。
「主神……ルミアス……知り合い……嫌い」
「ええ……」
予想外の理由に、セトが肩を落とした。主神と知り合いでしかも嫌いとか言われても正直困る。
「とはいえ、冒険者になるには仕方ありません。行きましょう、正体がバレないことを祈りながら」
「その場合、誰に祈るべきなのかしらね……」
そんな事を言いながら大神殿に入り、セトは職業適性診断とジョブ取得の旨を受付にいた修道女に伝えた。
「かしこまりました。三名様分で、千五百ガルドになります」
「げっ、金取るの!? あくどい商売ね」
「姉さん、聞こえますよ」
苦笑しながらセトが革袋から銀貨と紙幣を取り出し、寄付を行う。
「こちらをお納めください」
「ありがとうございます。それでは……〝剣の間〟が空いておりますのでそちらへ」
「はい。ありがとうございました」
礼を言うと、セト達が言われた〝剣の間〟へと向かった。見れば大神殿の中には似たような小部屋がいくつもあり、冒険者志望らしき若者達が各部屋へと緊張した面持ちで入っていく。
〝剣の間〟に入室すると、奥には少年の姿をしたルミアスを象った神像と祭壇があり、手前には魔法陣が床に刻まれている。その魔法陣からは微かな光が放たれ、その上に白い水晶がフヨフヨと浮いていた。
「ようこそ。私は神官のリエーナです。それでは早速始めましょうか」
柔和な笑みを浮かべた女性神官――リエーナがセト達へと簡易式の祈りを捧げた。
露骨に嫌そうな顔をするケルトをヴェロニカが小突く。
「それでは、まず職業適性診断ですが――」
「要らないわ。どうせ取得できるジョブは変わらないのでしょ?」
ケルトがきっぱりとそう言ったので、リエーナが困ったような表情を浮かべた。
「それはそうですが……二つ以上のジョブに適性があった場合は、選択できますけど」
「一番適性が高いやつでいいわよ。人間用のジョブなんてどうせあたし達には関係ない」
「人間用?」
「あはは……すみません。彼女の言う通りやってもらっても大丈夫ですか?」
セトが謝罪しながら頭を下げるので、リエーナが頷いた。
そんな事を言われたのは初めてだったので戸惑ったが、当然、出来ないことはなかった。
「分かりました。では、ジョブを所得した者は前へ」
「ちゃちゃっとジョブ取得して依頼受けにいきましょ」
「そうだね。僕は、みんながどういうジョブになるか楽しみだけど」
「期待しない方いいわ」
ケルト達が、魔法陣へと一歩進んだ。
「それでは、〝授けの儀〟を行います――」
リエーナが手に持っていた鈴を鳴らし、屈んで魔法陣へと手を置いた。
彼女の全身から目映い光が放たれ、部屋を白く染め上げる。
「うお、まぶしっ」
ケルトが思わず手で目を覆った。
「なにこれ……僕の時と違う」
セトが驚きながら思わずそう呟いてしまう。自分の時はこんなに光らなかった。明らかにこれは……異常だ。
ケルト達がただの人ではないから、何か想定外が起こってしまったのかもしれない。
「リエーナさん、大丈夫ですか!?」
セトがそう声を上げたと同時に――光が止んだ。
「ふむ……久々に降りてきたけど……中々にエロい身体してるねこの娘」
そんな声が響いた。それはこの場の誰の声でもなく、少年の声だった。
「……出たわねクソエロジジイ」
ケルトが心底嫌そうな顔でそう吐き捨て、リエーナを睨み付けた。
リエーナは手で自分の身体をまさぐっていて、顔を見ればその目は見開かれており、青かったはずの瞳が金色に輝いている。
背中には半透明の鳥のような翼が生えていた。その姿は差異はあれど、背後にあるルミアス神像と良く似ている。
「えっと……リエーナさん?」
セトが恐る恐る話し掛けると、リエーナがぎろりとセトを睨んだ。
「我はルミアス。このリエーナという女の身体を借りて降臨している……人間はひれ伏すがいい」
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