第3話:パーティを組もう
「なるほどね……セトが牧羊犬を召喚したらあたし達が出来てきたと……ってあたしらは犬かっ! 失礼な!」
セトの事情を聞いたケルトが、一人盛り上がっていた。
「犬ですよ、ケルト姉さん」
「種族……ケルベロス……別名地獄の番犬……やっぱり犬」
「……うるさいわね!! 分かってるわよ!」
三人の様子を見て、セトは混乱しながらもなんとか現状を把握しようと、言語化を試みた。
「えっとつまり……三人は元々一体の魔犬だけども地獄から逃げだそうとしていた。そこで、地獄の女神の目を盗んで宝物庫にあった〝進化の秘宝〟を使って人間化……そしてたまたま僕からの召喚要請があったから、承認した……で合ってる?」
「その通りね! 元々は首が三つある地獄の番犬ケルベロスよ。最強の魔獣なんだから」
「うん……僕でも知ってるよケルベロスは……想像とはだいぶ違ったけど……」
セトが引き攣った笑みのまま、ドヤ顔するケルトを見つめた。
「それぞれの首に意思があり、性格も違うのですけど……なぜか人間化した際に分離してしまいました」
「……三つ首の人間……変だから……」
ヴェロニカとロスカの言葉にセトが頷く。
「なるほど……便利だねその〝進化の秘宝〟って。魔獣から人間って進化なのかどうか分かんないけど」
「そこは、ほらあれよ。〝進化の秘宝〟は使用者の願望を叶えてくれるからね」
ケルトが嬉しそうに自分の身体を見つめて、笑みを浮かべた。
「はあ……ケルト姉さん、まさかまだあの馬鹿げた夢を諦めていなかったのですね」
「……人間じゃないと……叶えられない……夢」
「夢?」
セトが聞き返すと、待ってましたとばかりにケルトが口を開いた。
「そうよ! 私の夢は――
「……うん、分かるよ。僕もそうだから」
セトも冒険者に憧れて王都にやってきたから、ケルトの気持ちは良く理解できた。
そしてそれが、自分にとって叶わない夢だということも。
「流石ねセト、話が分かるじゃない!」
グイッと近付いて身体を寄せるケルトに、セトはドキドキしながら顔を逸らした。少女特有の甘い匂いがふんわりと漂う。
「君達は強いから……きっと良い冒険者になれるさ」
セトはそう言って、ケルトから身体を離した。
自分にはない力を彼女達は持っている。無力な僕とは違うんだ……。そんな思考に囚われてしまう。
「はあ? あんた何を言っているのよ」
「へ?」
ケルトがセトの顔を両手で掴むと、自分の顔の真正面に持ってきて、まっすぐに彼の目を覗き込んだ。
「良い冒険者に、
「僕も……一緒に?」
「そうよ! 特別にあんたをパーティリーダーにさせてあげるからスーパー感謝しなさい!」
「ぱ、パーティ!?」
「冒険者と言えば、パーティでしょ? 丁度あんた入れて四人だし、最低限の人数は揃ろってるじゃない」
ケルトが勝手に残りの二人を人数に入れているが、二人がそれに反対する様子はない。
「いや、それは昔の話で、今はソロでも冒険者にはなれるけど……」
「そう? でもほら、やっぱりあんたの知識がいるじゃない。じゃあそういうことで」
「ま、待ってくれ」
セトが大きな声でそう言うと、三人が彼へと注目する。
「何よ。文句あるの」
「いきなり……パーティを組もうなんてそんなの無理だよ。僕は羊飼いで無能で無力なんだ、足手纏いにしかならない。だから僕は追放されたんだ。もう……そういう思いをするのは嫌なんだ。そりゃあ冒険者になりたかったよ……でも無理なんだ」
セトは俯いたまま、そう語った。もうあんな辛い目は二度とあいたくない。
「はあ……セトを置いてった奴等は特級の馬鹿だけど、あんたも負けず劣らずね」
「地上の人間はここまで退化したのですか?」
「……みんな……忘れてるのかも……」
「え? 何が?」
三人の反応が思っていたものと違ってセトが戸惑っていると、ケルトがため息をつきながら、答えた。
「あのねえ。羊飼いが最弱無能だなんて……見当違いも良いところよ。確かに、一見すると強いスキルもないし、強そうに見えないけど……それは最初だけよ」
「へ? 最初だけ?」
ヴェロニカとロスカが言葉を返す。
「セト様は知っているかは定かではありませんが……古より羊飼いとは、導く者……つまり
「……普通に羊飼いのまま……生涯を終える人が大多数……だけどね」
信じられないと言った表情を浮かべるセトの髪をケルトがくしゃくしゃになるまで撫でると、こう言い放った。
「これで分かった!? セト、あんたはケルベロスすらも召喚出来る器を持っているのよ! 言っとくけど、あんたにその器がなければそもそも召喚要請が私達のところには来ないからね。だから、こうやってあたし達がいる時点で……あんたには英雄になる素質がある。だからただの羊飼いじゃない、無力でも無能でも最弱でもない! 分かったらシャンとしなさい! あんたがパーティリーダーなんだから」
「本当に……いいの?」
セトがそう聞き返すと、ヴェロニカが肩をすくめた。
「ケルト姉さんがそう言うなら仕方ありません。セト様を殺して召喚を解除したとしても……地獄に強制送還されるだけですからね」
ロスカも無表情のまま小さく頷く。
「よろしく……お兄ちゃん……」
そんな三人を見て、セトはまた泣きそうになるのを堪えた。
もう泣かないと決めたのだ。
「ありがとう……そしてよろしくね」
セトは笑顔のままそう言って、頭を下げたのだった。
こうして――後に放浪の民を救い、大英雄と呼ばれることになるセトと、彼の生涯を支えた最強の魔獣であるケルト達の、パーティが結成したのだった。
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