第5話:母の想い

「というわけで、お見合いの件はなかったことにしてほしい」


 家に帰ると、アカリは母にルゥのことを全て話しました。


「……最近やたらとおばあちゃんに会いに行ってると思ったら……そういうことだったのね」


「うん」


「そう。それなら仕方ないわね。お見合いの件は断っておくわ」


「えっ」


「何よ」


「いや、絶対反対されると思ったから」


「反対するかどうかはその獣人の女の子を見て決めるわ。と、いうわけで、今から会いに行きましょう」


「えっ。今? さっき別れたばかりなんだけど」


「だってぇ、人に全く興味がなかったあなたを落とす人だもの。気になるじゃない?」


 そういうとアカリの母は机の引き出しから杖を取り出し、楕円を描きました。すると扉が現れます。開けると、ルゥが畑のイチゴを摘み取っている姿が映りました。摘み取ったイチゴをつまみ食いしようとした瞬間、アカリとアカリの母が何もないところから突然現れ、ルゥは「ぴゃあ!?」と悲鳴をあげて飛び跳ね、慌ててイチゴをカゴに入れました。


「……ルゥ、今、つまみ食いしようとしただろ」


 アカリに苦笑いされますが、ルゥは全力で首を横に振ります。


「し、してない!」


「見てたわよ〜」


「!? 誰!?」


「あたしの母さん」


「アカリのお母さん……」


「娘がお世話になってますぅ。アカリの母のレミリアです」


「ル、ルゥ、です」


「うふふ。そう警戒しなくていいのよ。ルゥちゃん、アカリのどこが好きなの?」


「えっ、えっと、その……」


「母さん。ルゥを困らせんなよ」


「うふふ。ごめんなさい。娘に出来た初めての恋人だから、気になって仕方なくて」


「はぁ……ルゥ、ごめんな。悪い人ではないんだ」


「……ワタシ、獣人。それも、メス。……娘の恋人、ふさわしくない、思わない?」


「私が見定めたいのは、あなたがこの子を大切にしてくれるかどうか。それだけ。種族や性別は関係ないわ」


「……貴族の男とお見合いさせようとしてたくせに」


「あれはあなたのためになればと思ったからよ。別に結婚を強制させようとしたわけじゃない。けど、お節介だったことは謝るわ。ごめんなさい。それで、ルゥちゃん。アカリのどこに惚れたのかしら。この子、乱暴だし、口悪いし、雑だし……良いところと言ったら容姿くらいよ?」


「おい。実の娘に対して酷い言いようだな」


「本当のことじゃない」


 けらけらと笑いながらレミリアが言うと、ルゥは「そんなことない」と首を横に振りました。


「アカリ、良い人。ワタシのこと助けてくれた。人間、獣人、虐める。アカリ、獣人虐めない。りんご、くれた。守ってくれた。大丈夫って、抱きしめてくれた。ワタシ、狩人に村焼かれて、独りぼっちになった。ワタシ、アカリに会えて幸せ。だから……アカリのこと、悪く言わないで」


 ルゥはそう、涙目でレミリアに訴えます。それを見てレミリアはくすくすと笑いながら「合格」と親指を立てました。それを見てルゥはきょとんとしてしまいます。


「やぁねぇ。良いところなんて容姿しかないなんて、実の娘に本気でいうわけないじゃない。冗談よ冗談。けどごめんなさいね。愛する人のこと悪く言っちゃって。獣人って怖い種族だと思ってたけど、純粋で可愛いわね。ルゥちゃん、アカリのこと、よろしくね」


「よろしくされた」


「……さっきまでこれ以上好きになりたくないとか、人間の男と結ばれた方が良いとか言ってたくせに」


「う……も、もう言わない」


「絶対だな?」


「絶対。言わない。アカリ、ワタシの隣に居たい、言ってくれた。怖かった、本当。けど、嬉しかったも、本当。ワタシ、アカリより先に死ぬ。けど、出来るだけ長生き、する。少しでも長く、アカリと一緒に居たいから」


「……そうか」


「うん。だからアカリ、さっきはごめん。申し訳なかった」


「良いよ」


「改めて、よろしく」


「あぁ、よろしくな。ルゥ」

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