知らないおじさんに上から目線でマウント取られてボロカスに言われたけど、「どんまい」と慰めておいた。

バネ屋

知らないおじさんに上から目線でマウント取られてボロカスに言われたけど、「どんまい」と慰めておいた。





 私の趣味は、模型だ。

 プラモデル。ガンプラ作っている。


 最近のガンプラ人気で、女子でもガンプラ作る人が増えている。

 ツイッターなどでは「#ガンプラ女子」というハッシュタグもあるくらい。



 そんな女性のガンプラモデラーには大きく分けて3種類居る。



 同じ趣味をもつ男性モデラーたちからチヤホヤされたい勢。

 いわゆる、姫扱いされたい人。 

 作品の出来映えとか技術とか二の次。フォロワー数やいいねの数がなによりも重要。

 ツイッターも、自分の作品の画像をツイートすると、高頻度で自分の顔も一緒に写ってる。

 インスタ女子がよく上げるスイーツと自分を一緒に写した写真のガンプラ版だ。




 次が、ガチ勢のつもり勢。

 姫扱いされたい勢と一緒に見られたくない、でも本心ではチヤホヤはされたい、というプライドは高いが承認欲求も強いのだろう。

 でもまぁ、ガチのつもりとは言う物のそれなりのスキルが無ければすぐメッキが剥がれてしまうので、作品のレベルは高いほうだろう。

 ガチのつもり勢の特長としては、やたら良い道具揃えてる。

 あとMG(マスターグレード 3000円~10000円超のキット)ばかり作ってる。

 お金持ってるんだね。




 最後が、女子であることを隠してる勢。

 女子だからとチヤホヤされるのがうっとおしく思い、他のモデラーとの交流よりも自分の作品の製作を重要視する。

 要は、モデラーとしてのスキルやアイデア、作品の出来栄えで評価されたいのだ。

 女子であることを晒すと、どうしてもそこに注目されてしまうので、敢えて女子であることを隠して活動している。

 私は、ココに属する。




 私のモデラー歴は、かれこれ5年になるだろうか。


 弟の影響で始めてみたのだけど、すっかり嵌ってしまい、今では毎週末自室に引きこもり朝から晩まで作業をしている。

 因みに弟は直ぐに飽きて辞めてしまった。



 恋人? そんなものいらない。 

 恋人なんて作ったら、製作時間が削られるだけじゃないか。


 友達? 居るにはいるけど・・・まぁ、お察し程度だ。

 数少ない友達も、ガチのオタクばかりなので、私と似たり寄ったり。





 毎週末、ひたすらパーツの表面処理して、プラ板カットして、パテ盛って削って、サフ吹いて、カラーリングして、デカール貼って、自作ブースで撮影してって、女捨てて作業に没頭している。


 そんな私もモデラー界隈では最近は徐々に評価が上がりつつあり、ツイッターのフォロワーも1000を超え、模型雑誌主催のコンテストでは念願の予選通過(参加者の1割程度が通過できる)するという実績も残せるようになった。




 で、ですよ。こんなヒッキーモデラーの私が、フォロワーさんからのお誘いがありまして、展示会(モデラー主催の作品発表会)に初参戦することになったのですよ。


 前々から興味はあったけど、知らない人ばかりで怖そうだし、何よりリアルのモデラー仲間は居ないからね。

 リアルのモデラー界隈じゃずっとボッチだったから。




 誘って頂いた方にアドバイスを貰い、2つの作品を持参することにした。

 雑誌のコンテストで予選通過した時の作品と、一番最近の完成品。

 展示用のベースも自作で用意して、作品のネームプレートも作った。


 モデラー用の名刺とかも普通は用意するそうだけど、なんかそれは止めた。

 だってさ、意気込んで名刺用意したのに、誰も貰ってくれなかったら絶対凹むやつじゃん。








 当日の朝

 会場の入り口に到着し、誘ってくれた方へ到着のメールをする。


 数分すると会場の中からそれらしい人が出てきて、辺りをキョロキョロしている。


 私は、勇気を振り絞って声をかけた。


『あ、あ、あの! ドリル親父さんですか?』


 滅茶苦茶緊張しててガチガチだ。


「え!? もしかして、バネ屋さん!? えええええ!? 女性だったんですか!?」


『えっと・・・はい、すみません・・・・』


「あー!すみませんすみません、女性だと色々ありますもんね。気が利かなくてこちらこそすみません」


『いえ! あの・・・初めまして、今日はお誘い頂いてありがとうございます! 初めてなのでご迷惑おかけすると思いますが・・・・よろしくお願いします・・・』


「こちらこそ、よろしくお願いします! 今日はバネさんの作品、リアルで見れるの楽しみにしてました! 是非色々教えて下さいね!」


『いえいえ!私なんてホント素人なんで、ドリル親父さんみたいな凄い方に教えるなんて恐れおおいです!』


「またまた~ふふふ。 早速会場に入って準備始めましょうか』


『はい!よろしくお願いします!』


 こうして無事に合流を果たして、展示会の会場へ入ることが出来た。













 私が今日持参した作品は、1/100のデナン・ゾンとHG1/144のドムトローペン。


 デナン・ゾンは旧キットと呼ばれる発売時期が20年程前の古いキットで、古いキットならではのズングリとしたスタイルを、劇中のスタイリッシュなスタイルに改造した作品だ。 

 この作品で念願のコンテスト予選通過を果たすことが出来た。

 


 もう1つのドムトローペンは、スタイルの改修と陸戦タイプにカスタマイズした作品で、自分の好みにいじり倒した。 

 塗装も筆塗りに拘り、自分の中でも最高傑作の1つと自負している。



 ドリル親父さんに私のスペースを教えて貰い、ベースを並べ作品を乗せる。


『ドリル親父さんのお隣なんですか!? あの・・・私のじゃレベル低すぎて恥ずかしいです・・・・』


「そんなことないですよ!何言ってるんですか!? 滅茶苦茶かっこいいじゃないですか! 大丈夫ですよ、自信持ってください」


 ドリル親父さん、滅茶苦茶いい人だ。

 初対面でも女性であることに気を遣ってくれたし。


 気を取り直して、キットのポージングを考える。

 ドリル親父さんにポージングを見て貰い「これでOK」との言葉を貰えたので、ネームプレートを飾って、名札を記入してプレートの前に掲示して完了。




 緊張する・・・

 ドリル親父さんは励ましてくれたけど、知らない人に「下手くそ」とか「こんなレベルで来るな」とか言われたら立ち直れそうに無いよ・・・




 周りの方たちは、知り合い同士が多いのか、皆さん雑談したりお互いの作品を鑑賞して意見しあったり、名刺交換なんかを始めていた。


 私は、ドリル親父さんしか知り合い居ないし(それもさっき初対面を果たしたばかりだし)、ドリル親父さんは有名モデラーなので知り合いも多くて、私にばかり構っていられないだろうし、結局わたしは一人ぼっちなので、他の方たちの作品を見てまわった。




 展示会の参加人数は、全体で40名程だそうで、個人主催としては大きい方らしい。

 有名な展示会となると、数百人の参加者が集まるそうで、当然その参加者の作品のレベルも高い。

 今回の展示会は、仲間同士が声かけあって開催しているので、ガチの人もいれば、エンジョイ勢も居て、作品のレベルもピンキリだと感じた。



 それでもやはりドリル親父さんの作品は、レベルが違うなと思った。



 一通り各作品を拝見させてもらい、再びドリル親父さん&自分の作品のところに戻ると、結構な人だかりが出来ていた。


 流石ドリル親父さん、みんなドリル親父さんの作品を見たいんだなと感心していると


「え!バネ屋さん来てるの!? どこ?どこにいるの!? 挨拶したい!」と声が聞こえてきた。


 やばい・・・どうしよ・・・お前程度が生意気だ、とか怒られるのかな・・・


 するとドリル親父さんが「そちらのお嬢さんがバネさんですよ」と私を紹介してくれた。


「ええええ!?バネ屋さんって女性だったんですか!?」


「ちょっと!声デカイですよ! 静かにね」


 私があたふたしていると、ドリル親父さんがその方を窘めてくれた。


『あ、あの・・・すみません・・・ドリル親父さんにお声を掛けて頂きまして、初めて参加させて頂きました・・・・』


「バネ屋さん!いつもツイッターで作品拝見してました! 生で見れるなんて凄いラッキーです!」


 そこから、私の作品をベタ褒めしてもらえた。今日持ってきていない作品のことなんかも話題に出してくれて、普段から私の作品に注目してくれていたことが伺えた。

 次第に、ドリル親父さんやその方のお仲間さんたちも集まってきてしまい、みなさん私が女性であることを驚きつつも、純粋に作品について意見や質問をしてくれて、緊張しつつも楽しいひと時を過ごすことが出来た。






 ひと息ついて、隅っこのパイプ椅子に座って皆さんから頂いたモデラー名刺を眺めていた。

 どの方もツイッターで見かけたことがあるハンドルネームばかりで、道理でみなさんも私のことを知っていたんだな、と感心していると、一人の男性に声を掛けられた。



「おねーさん、ガンプラに興味あるの?」


 先ほど皆さんによくして貰ったことから、何も警戒せずに返事をした。


『はい、まだまだ下手くそですけど、ガンプラ作るの好きなんです』


「へぇ~、最近多いよね、女の子でガンプラ作るの。 そんなにチヤホヤされたいのかね~」


 むむ? 別にチヤホヤされたい訳じゃないんだけど

 でも実際、さっき皆さんにチヤホヤされてたと言われれば否定出来ない


『そ、そうですね。 ハハハハ・・・』


「僕みたいに、ガチで作ってる人間からしてみれば、全くけしからん話だね! ガンプラ舐めるな!って言いたいよ」


『ハハハ・・・』


 なんかもう渇いた笑いしか出てこない


「ところでおねーさんも参加してるの?」


『はい、一応』


「どれどれ、僕が見てあげよう。どこにあるの?」



 仕方ないので、自分の作品のところへ行って『コレです』と教えた。


 そしたら急にムキになって

「この程度で参加してるの? 表面処理とか絶対手を抜いてるよね? ベースもダサイし、所詮オンナレベルだな」


 えー

 本人に向かってソコまで言う? ていうか、なにこいつメンドクセー!


 流石にカチンと来てしまい

『アナタの作品も見せて下さいよ。ドレですか?』と言い返してしまった。


 その男性は急にトーンダウンして、目が泳ぎ始めたので

『ドコです?ドコです? 私も見せたんだから見せてくださいよ~♪』と猫撫で声で甘えるように聞いてみた。



 しぶしぶという感じでその男性は自分の作品のところへ案内してくれた。



 その男性の展示作品は1つ。


 う~ん・・・・


 表面処理どころか、合わせ目もガタガタなんですが・・・

 ベースも既製品使ってるし・・・


 はっきりと言わせてもらうと、ド素人レベル。

 上手いとか下手とか語れるレベルじゃなかった。



 私はその男性に向かって『どんまい』と声をかけ、その場を離れた。




















 お終い。










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知らないおじさんに上から目線でマウント取られてボロカスに言われたけど、「どんまい」と慰めておいた。 バネ屋 @baneya0513

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