第10話 君の能力

 *


 「……休むとは、言ったものの……私、起きたばかりなんだよなぁ」


 いつなが眠りにつき、特にすることもない璃羽は、ただ窓の外をボーっと眺めていた。

 元の世界とは違って緑が多く、空気がおいしい。

 優しく肌を撫でるようにして流れ込んでくる微風は心地よくて気持ちが安らぐが、やっぱり慣れない異世界だからか、時々いつなの方を見てしまう。

 怖い訳ではない。でも不安だ。


 「……どうしよ……」


 いつなが起きる気配はない。

 彼も休まなければならないのだから、数時間は戻ってこないだろう。


 外から小鳥のさえずりが聞こえた。

 昨日の妖魔出現が嘘のように、平和だ。


 「……出てみるか」


 もう一度いつなの姿を見ると、璃羽は彼を残して部屋を後にした。



 庭に出てみた。

 専属の庭師がいるのか、とても手入れの行き届いている綺麗な庭だった。

 そこを璃羽は何をする訳でもなくただ歩いていると、一羽の小鳥が肩にとまる。

 人間の肩にとまるなんて、何て人懐こい小鳥だろう。

 向こうの世界ならそうそう無いことだと、璃羽が目を丸くしながら小鳥の身体を撫でいると、どこかで同じように驚いたような声が聞こえて、ハッとした。


 「姫はその様に自然と、動物と触れ合えるのか?」

 「嶺鷹……っ、いつの間に⁉︎」

 「姫を一人で出歩かせる訳にはいかないだろ」


 いつからいたのか、当たり前のように嶺鷹が控えていて、物珍しそうにこちらを見ていた。

 日頃から人の気配には気をつけているはずが、何とも不覚。というより嶺鷹の、気配の絶ち方が上手いというべきか。


 「たまたまこの小鳥がとまっただけだ。私だって驚いてるんだぞ」

 「龍姫の能力、ではないのか?」

 「私は普通の人間だ。特別な力なんてないぞ」


 龍姫とは名ばかりで、他はどこの誰とも変わりないことに、璃羽は何となく不甲斐なさを感じて内心落ち込む。

 本当にこんなことで、龍姫が務まるのだろうか?と、そんな不安をひしひし感じていると、


 「なぁーんだ、お話しできないんだ」


 甲高い声で小鳥がそう言って、バサバサッと飛び去っていくのを璃羽は見た。


 「……え……?」

 「どうかしたか?」

 「あー……いや……何でもない」

 

 ――今、幻聴が聞こえたような


 一筋、嫌な汗が流れた。


 「ところで嶺鷹は、私についていていいのか? 他に仕事があるんじゃないのか?」

 

 はぐらかすつもりで、璃羽は話題を変えようと彼に問いかける。

 先程も思ったが、もしや別室を用意するほどたくさんの仕事を抱えているのではと、璃羽は嶺鷹を心配しているのだが、けれど当の彼は涼しげな様子を崩すことなく、さらりと答えた。


 「姫の護衛が最優先だ。何かあってからでは遅いのでな」

 「……真面目だな、お前。何でそんなに私を龍姫だと思えるんだ?」


 璃羽は呆れ顔で訊ねる。


 「翠に言われただけなんだろ?」

 「いや……あなたは間違いなく龍姫だ」

 「え……?」


 嶺鷹はそうはっきり答えると、呆気にとられている璃羽を他所にさっと踵を返した。


 「丁度いい。あなたに見せたいものがある」

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