パスタデー


 ~ 十月二十五日(月) パスタデー ~

 ※桃傷李仆とうしょうりふ

  兄弟の争い




 お姉さんのアドバイス聞いて。

 土日の間もずっとやって来たんだけど。


「なあ、舞浜ちゃん。好きな人の事言いたくなった?」

「な、ならないし、今はそれどころじゃない……」


 いくら、舞浜ちゃんのいる前で。

 おにいに舞浜ちゃんのこと好きか聞いてみても。


 好きな人が分かるどころか。

 なんだか険悪ムードになっていく。


 でも、凜々花は決めたんだ。

 お姉さんの言うこと信じて、突き進もう!


「おにい! 舞浜ちゃんのこと、好き?」

「何度も何度も聞いてきやがって、どういうつもりなんだよ」

「好きかどうか答えてくれりゃいいんよ!」

「今は、きらい」

「があああああああああああん!!!」

「があああああああああああん!!!」


 がっくり膝を屈した凜々花のとなり。

 舞浜ちゃんも、床に崩れ落ちちまってるけど。


「舞浜ちゃんはそんなに落ち込むことねえよ。良かれと思ってやった事だって、凜々花は分かってっから」

「ぐすん。凜々花ちゃんポイントは減らなくても、肝心の方が……」


 おにいが作ったパスタソース。

 温め直しを頼まれた舞浜ちゃん。


 ぶつぶつ呪文を唱えながら。

 最大火力でぐっつぐっつ煮込んだもんだから。


「あ、あれだけ美味しくなあれって呪文唱えたのに……」

「その想いを火力調節つまみで表現するから真っ黒に焦がすんだ」

「ぐすん」

「しょうがねえから、向かいでなにか買って来る」

「ねえおにい! こんな舞浜ちゃんのことだけど、好き?」

「ええいしつこい! 好きでも嫌いでもねえって言ってるだろう! ……今は嫌いだが」

「があああああああああああん!!!」

「があああああああああああん!!!」


 舞浜ちゃん。

 お料理頑張ってんだけどな。


 どうにも失敗ばかりで。

 最近、八食連続ハンバーガー。


 だからかな。


 おにいは短気になって。

 凜々花の質問にもぞんざいな答えしか返してくれなくなった。


「凜々花ちゃん、質問です」

「ん?」

「金曜の夜から続く、その拷問は何?」

「拷問じゃなくてな? 作戦なんよ」

「作戦?」

「そう。ソースを美味くすればパスタも美味くなる作戦」

「…………はあ」


 困り顔した舞浜ちゃんに。

 三十回目のチャレンジ。


「で? 舞浜ちゃんの好きな人って誰?」

「今は、いないと返事をさせて欲しい……」


 意味深な言葉で。

 何かを誤魔化した感じの舞浜ちゃん。


 また失敗か。

 凜々花、やり方間違ってる?


 鍋の焦げをガシガシ落とすパパ。

 こいつで試してみようかな?


「ねえ、パパ。舞浜ちゃんのこと、好き?」

「そりゃそうさ。失敗はするけど、一生懸命頑張ってくれてるじゃない」

「ふむふむ。じゃあ今度は舞浜ちゃん。好きな人おせーて?」

「り、凜々花ちゃんとパパは優しいから好き……」

「ふうむ、やっぱり間違ってねえよな。じゃあ、それ以外に好きな人は?」

「好きでいる事が申し訳ない状態なので口に出来ません……」

「やっぱまだ足りねえのか」


 こうなりゃ、明日はおにいの学校に乗り込んで。

 休み時間ごとに繰り返さねえと。


 凜々花はそんな決意と共に。

 お姉さんに状況を連絡してみたんだが。


「んにょ? 返事はやっ!」


 お姉さんから、あっという間に届いたお返事。

 しかも長文。


 なにこれ、今の一瞬で打ったの?

 あるいは準備してた?



< なるほど、それはしつこく攻め過ぎた

  せいかもしれません。

  では、少女はきっと、おにいが舞浜

  ちゃんを嫌いになってしまったかも

  しれないという不安を抱いている

  ことでしょう。

  ここはおにいが舞浜ちゃんを好きに

  なるように仕向けるのが先です。

  そのためには……



「……おお。さすがお姉さん」


 凜々花がどう感じてるか。

 しっかり分かってる。


 もうすっかり信者だぜ。

 迷う事なんか何もねえ!


「よし! では、次の作戦開始!」

「ま、まだ変な拷問が続くの?」

「だから拷問じゃねえって」


 未だに床にへたり込んでる舞浜ちゃんが。

 凜々花にすがるような勢いで懇願してきた。


 だから凜々花は、舞浜ちゃんの肩に手を置いた。


「安心してくれ。最後はきっとうまくいく」

「一体、何の作戦……?」

「凜々花を信じてくれ。これは全部、幸せになるための作戦なんだから!」

「あ、あたしが幸せになるのを応援してくれてたの!?」

「んにゃ? これは全部、凜々花が幸せになるための作戦」

「ぎゃふん」

「…………で?」

「え?」

「舞浜ちゃんの好きな人は?」

「今ので、パパさんだけになりました……」

「があああああああああああん!!!」


 これはヤバい!

 どえらいことになってる!


 急いで次のミッションを成功させないと。

 凜々花、舞浜ちゃんの娘になっちまう!


「ただいま」

「おにい!!! ただいまじゃねえぞちょっとこっち来い!」


 はやいとこ、二人を両おもいにさせねえと!

 でもまずは……。


「なんだよ。まだ同じこと聞く気か?」

「そうじゃねえ! まずは邪魔者の排除を手伝ってくれ!」


 凜々花は、おにいに手伝ってもらって。

 パパを寝室に封印した。


 これで三日四日稼げるだろ。

 その間に……。


「待っててね! 舞浜ちゃん!」

「もう、何が何だか……」


 不安そうな顔する舞浜ちゃんを。

 凜々花が幸せになることで幸せにしてやらねえと!


 新たな決意を胸に。

 ホカホカのハンバーガーに食らいついたのだった。

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