反戦デー


 ~ 十月二十一日(木) 反戦デー ~

 ※相思相愛そうしそうあい

  お互いに愛し合っていること




「また、すべてを知る私に話を聞きたいのか?」

「雛姉ちゃんさん先輩なら知ってるって聞いてさ!」

「恋愛事情以外ならなんにでも答えてやる」

「…………そこをなんとか」

「まじかよ」


 雛姉ちゃんさん先輩のバイト前。

 公園で待ち合わせ。


 クールビューティーな雛姉ちゃんさん先輩は。

 凜々花に悩み事があるときは、こうしてたこ焼き片手に語らってくれる。


 でも珍しく。

 今日は冒頭から拒否された。


「……美味いな、ここのたこ焼き」

「うん。でもな? 恋の……」

「この、たまにタコが入ってないくじ引き感がたまらない」

「どうしても誰が好きなのか知りたくて……」

「そして出来上がってから二分もするとふにゃふにゃになる儚さもいい」

「今日は頑なだね、先輩」

「今日は頑なだな、後輩」


 ベンチに座って一歩も引かずに。

 なにかが勃発しそうににらみ合う凜々花たちを。


 オロオロしながら。

 なんとかとりなそうとするコタくん。


 手にしたタコ焼きをすすめながら。

 これでも食べて平和に行こうよとか言ってくれたけど。


 コタくん、筋金入りの猫舌だから。

 凜々花たちに全部食われちゃうのはいつものことじゃない。


「とにかく。コイバナだったら畑違いだ」

「そうなんか……。じゃあ、誰に聞けばいい?」

「カンナかな」

「あねごかあ」

「カ、カ、カンナさんは、恋のお話は好きだけど、結構滅茶苦茶なことになる……」

「こら。面倒事が解決しそうだったのにふりだしに戻さないでよね?」

「ご、ご、ごめんねヒナちゃん……」


 飼い犬系のコタくんは。

 いっつも雛姉ちゃんさん先輩に叱られてるけど。


 でも、最後は決まって。


「ごめん、コタロー。せっかくいいアドバイスくれたのに」


 雛姉ちゃんさん先輩が。

 悲しそうな顔してコタくんの手を握る。


「カンナさん、恋のお話が好き。でも、恋のお話に詳しくはない気がする……」

「たしかにね」

「好きだと詳しいって訳じゃねえのか。それはちっと分かる気がするな」

「わ、わ、分かるんだ、凜々花ちゃん」

「コタくん、恋の話好きでしょ?」

「うん。幸せになる……」

「それが答えな気がすんだ、凜々花」


 きょとんとするコタくんを前に。

 すげえ納得してる雛姉ちゃんさん先輩。


 この二人の関係見てっと。

 好き同士でもお付き合いするわけじゃねえって事がよく分かんだよな。


 コタくん。

 とっとと告ればいいのに。


「ど、どういうこと?」

「……コタローは、今のが分からなかった罰で飲み物貰ってきて?」

「わ、わ、わかった……」


 コタくんを、たこ焼き屋さんへ走らせたあと。

 雛姉ちゃんさん先輩が、軽くため息ついたりしてっけど。


「珍しいね、コタくんにパシリさせるなんて」

「そんなつもりじゃなかったんだけどな。そう見えたか?」

「うん」

「ちょっと照れくさかっただけだ」

「そっかあ。難しいもんなんだな、コイゴコロってやつは」

「……凜々花は、好きな男子とかいないのか?」

「舞浜ちゃん一筋なんだけど、でもこれがコイゴコロかどうかはよく分かんねえ」


 それは違う気がするって雛姉ちゃんさん先輩は言うけど。

 じゃあ、コイゴコロってなんなんだろ。


「そいつのこと考えるとドキドキしたり」

「ねえなあ」

「たとえば今、そいつのことを思い出したり」

「ねえなあ。……そう言えば、コタくんおせえな」

「ただでお水くれって頼んでるんだ。店員によっちゃ、ごねる」


 お水?

 そう言えば、飲み物買って来てじゃなく。

 貰ってこいって言ってたな?


「やべえ、かっこいい!」

「なにがだ?」

「料理人だからだろ? ジュースとかお茶だと舌が鈍るとか!」

「違う。コタローにカップの飲み物を持たせると、二回に一回は……」

「お、お、おまたせ! お水貰ってきうわひゃあ!」


 ばしゃん!


「…………こうなる」

「よしかずうううううううう!!!」

「ご、ごめんねヒナちゃん!!!」

「いや、それより。だれよしかず」


 ワイシャツ越しの方が破壊力上だぜこのやろう!

 凜々花、見ねえようにしたいのに。

 ちらっちら目がレモンイエローに向いちまう!


「……ははあ。さては、好きな男子に気が付いたな?」

「好きじゃねえ! あいつとはバチバチの喧嘩ちゅう!」

「でも、ほんとは仲直りしたいとか……」

「そう! ほんとは今すぐあいつと語らいてえ!」


 雛姉ちゃんさん先輩が。

 口笛吹いたりしてっけど。


 なんのまね?


「やっぱり、そいつのこと考えるとドキドキしたり」

「凜々花、さっきからドキドキが止まんねえよ!」

「今、そいつのことを思い出したり」

「ああ! そいつの言葉、一つ一つが凜々花の胸に突き刺さる!」

「おいおい。べたぼれじゃねえか」

「べたべたか! それもアリな気がするぜ!」


 やるなあ雛姉ちゃんさん先輩も!

 分かっていらっしゃるじゃねえの!


 でも、コタくんが上着脱いで先輩にかけちゃったから。

 お楽しみは終了だ。


「ヒ、ヒ、ヒナちゃんも、恋バナに夢中……」

「え!? あ、そうだったかな?」

「そして的確なアドバイスなし……」

「うぐっ!」

「なるほど。やっぱコイバナが好きなのと詳しいのとは違うってこったな」

「うぐぐ……」


 舞浜ちゃんの好きな人。

 探し歩いてみたけれど。


 雛姉ちゃんさん先輩でも分からないって事なら……。


「いや、でも最後に聞いてみるかな、あねごに」

「や、や、やめといた方が……」

「ううん? よくいうでしょ? えっと、どうせやるなら最後までっていうあれ」

「え、えっと。毒を食らわば……」

「そう! サラダまで!」

「あはははははははははは!!!」

「げ、解毒されそうだね……」


 結局、答えは見つかんなかったし。

 最後のヒントは当てになんねえけど。


 浮気調査、最後までやり切ろう。


 さて、あねご、知ってるかな。

 舞浜ちゃんが好きな人。



 そして。

 改めて考えてみっか。



 凜々花が舞浜ちゃんのことお嫁さんにしてえのが。


 はたしてコイゴコロなのかどうかって事を。

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