助け合いの日


 ~ 十月十五日(金)

 助け合いの日 ~

 ※戴盆望天たいぼんぼうてん

  二つのことを同時に実現させ

  ようとすると失敗する




 晩飯に、クロワッサンなんか食ったせいで。

 おにいが食後に。

 掃除機をウィンウィン。


 そんな仕事を取ろうと必死になっているのは。

 凜々花の舞浜ちゃん。


 ポイントを稼ぎたい。

 そんな一心で、家事を積極的にやろうとしてるけど。


 おにいはばっさり。

 得点チャンスを切り捨てる。


「舞浜、掃除苦手だろ。いいよ、他のことで挽回すれば」

「そうそう! 家族は助け合いだかんね!」

「ほ、他の事……、なに?」

「好きなこととか得意なこととか」

「舞浜ちゃん、凜々花のこと笑かすの得意だよ?」

「な、なるほど……。じゃあ、クイズです」

「じゃじゃん!」


 舞浜ちゃんが、握りこぶしを二つ作って。

 凜々花の前に突き出してきたけど。


 え?

 これがクイズ?


「一番大きいのを当てましょう」

「はあ。どゆこと?」

「両手の中、どちらかに一つずつ、バチカン市国とロシアが入っています」

「うはははははははははははは!!!」

「きゃはははははははははははは!!! 一番大きいの、舞浜ちゃん!」

「なんと、正解です!」


 なんのこっちゃ!

 どんだけ巨大なんさ舞浜ちゃん!


「では第二問! ロシアはどちらに入っているでしょうか!」

「こっち!」


 凜々花が右手を指差すと。

 舞浜ちゃんは、逆の手を広げて。


 からっぽの手の平を見つめて悔しそうに下唇を噛むと。


「せ、正解……」

「うはははははははははははは!!! バチカン、見えないほどちっちゃいなんてことあるか!」

「きゃはははははははははははは!!! 正解の方、広げて見せてみろー!」

「こ、これでポイント稼げてる?」

「ばっちりだよ舞浜ちゃん!」


 ちょーおもしれー!


 凜々花は思ったまんま。

 手放しで褒めたけど。


 舞浜ちゃんは。

 首をカクンカクン左右に揺らすと。


「な、何か違う気がする……」

「そんなことねえって。少なくとも家事やられるよりはいい」

「それって、家事はダメってことでは……」

「ウソだろ? 自覚無かったのか?」

「ぴえん」

「こらおにい! 舞浜ちゃん苛めんな!」

「わりいわりい。……ん? あれ?」


 ひでえこと言って舞浜ちゃん苛めたおにいが。

 掃除機のスイッチいじりながら首をひねる。


 うっさいよ、ウィンウィン言いっ放しで。


「まじか。スイッチ壊れた」

「あ、あたしが直そうか……?」

「おお。頼んでいいか?」


 舞浜ちゃん、自前の工具を取りに行って。

 戻ってくるなり掃除機を分解し始める。


 そしたらあっという間にウインウインが消えて。

 耳に心地いい、カチャカチャ音が静かなダイニングに響き渡る。


「なあおにい。こういうのは男子の仕事じゃねえの?」

「分かっちゃいるんだが、舞浜の方が得意なんだ。しょうがねえだろ」

「役立たずのおにいは分解されっぞ?」

「ねじがねえだろ」

「まあ、そうな。蚊がいなくなっちまったからな」

「あれにドライバーさしてぐるぐる回したら、痒みどころじゃなくなるな」


 いつものおにいとの会話に。

 舞浜ちゃんがクスクス笑ってる。


 えへへ。

 凜々花も、舞浜ちゃん笑かすの得意なんだぜ?

 

「あ。ついでに一つ頼んでいいか?」

「な、なあに?」

「食洗器が壊れててさ。直せるもんか試してくれ」

「食洗器……。乾燥機?」

「そう」


 うちじゃ、あれは洗いもんを乾燥させる機械だかんね。

 おかたずけは楽しいし。


「掃除機、直った……」

「よし、それじゃトライしてみてくれ」

「りょ、了解……」

「その隣で、凜々花と俺で洗い物な」

「おっけーおっけー! まかしとけー!」

「ず、ずるい……」


 ありゃま。

 おにいが凜々花の事取ったから。

 舞浜ちゃんがふくれちった。


「でも、凜々花、舞浜ちゃんの手伝いできねえし」

「そ、それはそうだけど……」

「その手ので凜々花ができる事って言えば、電動ドライバーでネジ山綺麗さっぱり消すことくらいよ?」

「あ、あたし一人でやります……」

「なんだ、手助け必要なのか? じゃあ俺が手ぇ貸すから。凜々花、洗いもん一人でできるか?」

「んー。おにいと一緒がいいかな……」


 前の家にも。

 その前の家にも。


 食洗器はあったけど。


 凜々花が、家のお手伝いできるようにって。

 最初に教わったのが洗いもん。


 おにいが洗って。

 凜々花が拭いて。


 それが当たり前だったんだけどな……。


「あ、あれ? あたし、意地悪なこと言った……、かも?」

「いや? 一人でやるのが当たり前だと思うぞ?」

「でも凜々花、バディーがいてなんぼって思うんよ、洗いもん」

「じゃ、じゃあ、先にそっちを……」


 おお。


 おにいと違って優しいなあ、舞浜ちゃん。

 肩をすくめて二階に行ったおにいの代わりに。

 凜々花の横に立ってくれた。


 なんだか嬉しくて。

 きもちがぽっかぽか。


 今の凜々花に渡したら。

 びっしょりの食器も、あっという間に乾燥するっての。


 そう、あっという間に。

 だから。

 とっとと渡して欲しいんだけどな?



「…………がっしゃがっしゃ音がするから戻ってみれば」

「ごめ……」

「適材適所って言葉があるだろ」

「はい」

損害報告ダメージレポート

「わが軍の損耗は、大破二、中破一」

「この場合小破でもアウトだからな? ……凜々花。その大量破壊兵器を押さえとけ」

「それも?」

「ああ。適材適所だ」


 割った食器を処理したおにいが。

 残存兵力を洗う姿を見つめてしょんぼりする舞浜ちゃん。


「だいじょぶだよ? 頑張ったとこは、凜々花見てっから!」

「でも……。またマイナス……」


 あれ? 凜々花は褒めてあげたのに、マイナス?


 それって。


 ポイント、おにいにつけてもらってるって事?


 まさか。

 だったら。



 ……舞浜ちゃん。

 まさかの二股!?



「……いたい。凜々花ちゃん、も少し緩くつかまえてて欲しい……」



 もしもそうだとしたら。

 これは一大事。


 よし。

 まずは証拠集めだな。


 探偵凜々花。

 華麗に参上だ!

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