#出前の話





こんばんは、クリス米村です。


今夜もラジオ品川の第1ブースからお送りする『クリス米村のGO!GO!レインボー!』。


リスナーのみんなは元気にしてたかな?


暑い日が続いてるからって、体調を崩してないかい?


こう暑いと外へ出るのがイヤになって、出前っていうのかな、ああいうのを頼みがちだよね。


今はウーバーとか、いろいろあるじゃん。


ほんと便利だから、オレなんてほぼ毎日、頼んでるんじゃないかな。


あれにどれくらい金を使ってるんだろって思って、計算したことがあるんだ。


1ヶ月で、なんと58万も使ってた。


自分でもびっくりしたよ。


オレは派手に金を使うから、それくらいいっちゃうけど、リスナーのみんなも似たようなもんだと思う。


額はだいぶ低いだろうけど。


そうそう、昨日、おもしろいことがあったんだ。


猛暑だったろ?


まさに「うだる」ような暑さだったよね。


でもオレは、部屋をクーラーでキンキンに冷やして、スライスしたレモンを入れたアイスティなんか飲んで、快適に過ごしてた。


気持ち良くなってたんだろうな。


ついうつらうつらしちゃって。


ハッと目が覚めたら、窓の外がすっかり暗くなってた。


しかも誰か来たのか、インターホンがピンポーン、ピンポーンって鳴ってるんだ。


あわてて玄関モニターを見たら、出前の人。


メジャーリーグのキャップをかぶって。


私服に店の名札をつけてて、『二鈴』って書いてた。


「なんか頼んだっけ?」って思いながらもオレはドアを開けて、受けとった。


いつもどおり、白いナイロン袋に食べ物が入っててさ。


『マーラー丼』って、黒マジックで書いてたよ。


腹も減ってたし、あんま食ったことのない丼だったから、開けて、食ったんだ。


だけど、すげえ辛くて。


辛いのは嫌いじゃないんだけど、ちょっと辛すぎて、半分残しちゃったんだ。


山椒かな?


量が多かったのかもしれない。


腹がシクシクして、しばらく横になってた。


30分ぐらいたったかな。


またインターホンがピンポーン、ピンポーンって鳴って。


モニターを見たら、キャップをかぶった、さっきの『二鈴』の配達人だよ。


何かオレに渡し忘れたのかな、と思ってさ。


丼ものには普通、スープが付くじゃん。


それかも、って思ってドアを開けたんだ。


そしたら配達人が困った顔で、「もう食べちゃいました? お届け先を間違えまして」って言いやがったんだ。


マジかー、そういえば注文してない気もしたんだよな、って思ったけど、もう半分食べちゃったからね。


胃の中のものを、容器に戻すわけにもいかないし。


でもさ。


よく考えたら、受けとったオレも悪いけど、そもそも配達人が間違えなきゃこんなことにはならないわけだろ。


悪いのは、『二鈴』。


だから追い返そうとしたんだ。


「捨てた」ってウソついてさ。


どうしてウソをついたのか、って?


だって「もう食べた」って言ったら、オレが食いしんぼみたいじゃん。


確かに、腹は減ってたけれども。


まあ、うるせえことを言われたら、代金を払ってもいいとは思った。


ムカつくけど。


とにかく「捨てた」って答えたら、配達人の顔面から一気に血の気が引いてさ。


尋常じゃないくらい汗をかき出して、「捨てたんですか? それはマズい。ヤバイことになった、どうしよう」ってモゴモゴ言いはじめて。


なんか気持ち悪かったよ。


そのうち「ああ、もう仕方ないです。こちらのミスなんで」ってあきらめたみたいだった。


で、「こっちで処理しますから、ゴミでもいいんで返してください」って言ってきたんだ。


だけど、もう半分食べちゃったじゃん。


食いかけを返すわけにもいかないから、しぶしぶ「じつは食べた。半分食べたところで気づいてさ。だけど、そっちが悪いんだから……」って言いかけたら、配達人が急にニヤーーーーーってしたんだ。


そいつの瞳孔が開いて。


表情も、溶けるみたいにだらんとして。


オレの顔をなめるように見ながら「食べたんなら、いいです。全部食べちゃってください。こっちのミスですので、料金は発生しませんから」って言って、配達人は出ていった。


そのあとだよ。


気持ち悪くなって。


トイレでゲーゲー吐いたんだ。


そのままベッドで寝た。


まいったね。


食べるんじゃなかった。


かなり辛かったからね、あの丼。


今ものどの調子が少し悪いけど、しゃべってれば治ると思う。


間違えて配達されたものなんて、食うもんじゃない。


ボーッとしてたオレも悪いんだけどさ。


じゃ、ハガキにいこうか。


ああ、こいつはよく送ってくれるリスナーだね。


どれどれ。


『ラジオネーム:配達人は二度ベルを鳴らす 32歳


いつも楽しいラジオを聴かせていただいて、ありがとうございます。


でもこのハガキが届く頃には、この感謝の言葉も無意味になっているでしょう。


だってクリス米村さんは、もうこの世にいないわけですから。


明後日の計画はきっとうまくいくと思います。


クリスさんは食い意地が張ってますし、毒物の苦味は辛いものに混ぜるとわからなくなりますから。


人気ラジオDJの突然の死去に、きっと世間は大騒ぎでしょうね。


このハガキが人目に触れることもないかもしれません。


でも、「クリス米村のGO!GO!レインボー!」のNo.1ファンとして、これだけは言わせてください。


クリス米村は僕のものです』


え?


なに、このハガキ?


どういうこと?


こいつ、頭おかしいの?


オレがもうこの世にいないとか、寝言を書いてきてるぞ。


おい、スタッフ。


変なハガキを持ってくるな。


曲行くぞ、曲。


今夜、最初のナンバーはこれにしよう。


『三度目の餌食』


いい曲だ。


聴いてくれ。


てか、おい、スタッフ。


いい加減にしろ。


仕事中に出前を頼むな。


マスター室に部外者が入ってるじゃねえか。


あれ?


おまえらも『二鈴』の出前を頼んだの?……」




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ラジオ品川 99.92FM

Navigator クリス米村

『クリス米村のGO❗GO❗レインボー❗〜今夜もパーリーしようぜ〜』

毎週木曜ほぼ21:30〜恋人たちが眠るまで

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【1話完結!スーパー短編】ラジオ品川『クリス米村のGO!GO!レインボー!』 薫 サバータイス @sabatice

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