#ダイエットの話【1話完結!スーパー短編】



「こんばんは、クリス米村です。


今日はリスナーのみんなに、悲しい報告をしなきゃならない。


オレも悲しい。


いや、むしろオレが一番悲しんでる。


そう、太っちまったんだ。


5キロぐらいか。


少し前から、腹の辺りが出てきたなとは思ってたんだ。


で、体重計に乗ったわけ。


1、2キロはすぐ太るから、今回もそれくらいだろうと思ってたら…


5キロだよ、まったく。


といっても、よくある中年オヤジの、ビールっ腹じゃないぜ。


そこまでじゃない。


腹のシックスパックの割れ目が、ちょっくら見えづらいとか、その程度だ。


だけど、大ショックでさ。


マジ、憂鬱。


オレはいつも、ファンの憧れの存在として恥ずかしくないよう、いろんなところに気を配らなきゃいけないと思ってる。


そんなきまじめな性格のオレを、ますます好きになるリスナーもいるかもしれない。


だけど今回ばかりは、がっかりさせちまったかもな。


さすがに。


5キロだもん。


もしくは逆に、こういうゆるい感じが魅力的だと思うファンもいるか。


ファンの行動は読めないからな。


まあ、とにかく、体のあっちこっちに気をつけるのは当然のことだ。


例えば、女の子が友達同士でしゃべってて、好きなスターの話をすることもあると思う。


3人で話してて、そのうちの2人が、好きなスターとしてオレの名前を挙げたとしよう。


よくあることだ。


残りの1人が、顔はいいけど、頭が空っぽの芸能人を挙げたとしよう。


これもよくあることだ。


そのとき、頭が空っぽの芸能人の名前が出た瞬間に、微妙な空気が流れるようにしたいんだよ、オレは。


わかる?


空っぽ芸能人の名前が出た瞬間に、なんで、っていうか。


どこがいいの、っていうか。


寒い、っていうか。


そういう空気が流れるようにしたいわけ。


カフェでも、電車でも、学校でも。


今までは、そうなってたはずだ。


だけど、憧れのスターがデブだと、さすがにそうはならないってのは理解してる。


こっけいっていうかさ。


なんで太ったかの原因はわかってるんだ。


ほら、自粛期間があっただろ。


その間、ジムに行けなかったんだ。


デリバリーを食べ過ぎたせいもあるだろう。


食べるしかすることなかったし。


それで太ったわけ。


5キロ増えたオレを見て、カワイイって言ってくるヤツも現にいることはいる。


だけど、それはオレの目指すところじゃない。


で、ジムが再開したときに、また通い始めたんだけど、方針が変わったみたいで、やたら厳しくなったんだ。


スパルタなんだよ。


ほら、オレは褒められて伸びるタイプだから。


即、やめてやった。


今ごろあのジム、後悔してるだろうな。


「クリスさんのためです! あと50回やらないと、帰しませんよ」なんて、トレーナーが言ってた。


なにを言ってるんだ。


いいか。


いつ帰るかは、オレが決める。


いつ水を飲むかも、オレが決めるんだ。


おまえじゃない。


おまえがするのは、提案だけだ。


ああしたらいいんじゃないですか、こうしたらいいんじゃないですか、ってな。


おまえの言うとおりに走ってたら、オレの足は折れる。


間違いなく。


プールにしたってそうだ。


オレはイルカじゃない。


泳いでないと死んでしまうイルカじゃないんだ。


え?


マグロ?


泳いでないと死ぬのは、マグロなのか。


ああ、そうか。


まあいい。


オレはマグロが好きだから。


最近は大トロじゃなく、中トロになってきた。


とにかく、オレはそのジムをやめてやった。


次のジムを探さないとな。


オレをうまく乗せて、ワークアウトする気にさせて、スリムにさせるジム。


トレーナーは男でも女でも、どっちでもいい。


頭がまともならな。


見つからなかったら、オレは太ったままだ。


さて、どうしたもんか…


じゃ、曲に行こう。


オレはジムのワークアウトに、必ずボルダリングを入れることにしてる。


素手で壁をよじ登るやつ。


やってると、頭がスッキリするんだ。


なんだろうな。


ジャングルのサルに戻った気分になるのかな。


オランウータンかな。


どっちでもいいか。


今夜はこの曲でスタートだ。


『たまには野性味』


   ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓

教訓👉クリス米村に野性味はないでしょ。笑


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