二景

二景


真夜

風の音

カムパネルラが彷徨っている


カムパネルラ 水。水は何処。


倒れるカムパネルラ


カムパネルラ 救って欲しい。戯言。僕は選んだ。独りで傷つくことを。このまま進むしかないんだ。


カムパネルラ立ち上がり進む


カムパネルラ 水。水。


カムパネルラ退場

冬の朝

ジョパンニ文庫本を読んでいる

マミミやってくる


マミミ 何を読んでいるんですか。こっち見てくださいよ。おーい。

ジョパンニ 銀河鉄道の夜。

マミミ へー。文学少年ですね。

ジョパンニ もうおじさんですけど。

マミミ いいじゃないですか。永遠の少年っていう称号、なかなかもらえないですよ。

ジョパンニ 欲していない。


マミミ、文庫本を取る


マミミ 本当の幸は一体なんだろうか。

ジョパンニ 何だと思いますか。

マミミ わかんない。

ジョパンニ そうですか。学校、行かなくていいんですか。

マミミ 休みだから大丈夫。

ジョパンニ そうですか。

マミミ 私の方を見てくださいよ。

ジョパンニ 僕は君のこと興味ないんだ。

マミミ 酷いこといいますね。

ジョパンニ 本当だから。

マミミ 何に興味があるんですか。この本ですか。

ジョパンニ どうだろうか。

マミミ 何もかもわからないんですね。かわいそう。

ジョパンニ そうだろうな。

マミミ 無気力に浸かっている。この人だめだ。


マミミ退場する


ジョパンニ 待ちなさい。

マミミ 何ですか。

ジョパンニ 本を。

マミミ 本。

ジョパンニ そうだ。

マミミ 返して欲しいの?

ジョパンニ そうだ。

マミミ いやだ。

ジョパンニ それは私の本だ。

マミミ 貴方はこの本を読むよりも自分自身を回復させた方がいいと思うよ。

ジョパンニ 返せ。

マミミ また来るね。その時返す。私もこれ読みたいから。


マミミ退場


ジョパンニ、椅子に座る


ジョパンニ カムパネルラ。僕はだめだ。何もできない。動けない。始まらないんだ。何もかも。


遠くから電車の音


ジョパンニ 此処が入り口だと僕はわかった。この先に君はいるんだろう。でも僕は進めない。君に逢うのが怖い。何を話したらいいのか。総て頭の中で悩ませて、碌な言葉が生まれない。僕は此処でずっと立ち止まっている。君と別れるのが怖いんだ。もう二度と逢えないというのに。


日が何度も落ちて昇る


マミミがやってくる


マミミ 約束です。返却します。

ジョパンニ はい。

マミミ おじさん。お名前聞いてもいいですか。

ジョパンニ ジョパンニだ。

マミミ この本の人もジョパンニ。おじさんはカムパネルラを待っているの。

ジョパンニ ずっと待っている。

マミミ 待っててもやってこないよ。探しに行かないと。

ジョパンニ 嫌だ。

マミミ 意固地にならないで。私も手伝うよ。


マミミ、ジョパンニの手を引っ張る

ジョパンニ手をはたく


マミミ なぜ。

ジョパンニ 僕は此処にいることを選んだ。

マミミ そんなの何にもならないよ。

ジョパンニ いいんだ。それで。

マミミ 人は動けないと何も変わらないの。私は報われるべきだと思うので。私、本当の幸せはみんなが手を繋ぐことだと思う。


マミミ、ジョパンニと手を繋ぐ


マミミ 貴方が動けないなら、私が代わりに動きます。私は貴方にもカムパネルラさんにも報われてほしいから。


暗転

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