第15話 もう行くところがないのです


 

 その日の午後、またしても真っ赤なスポーツカーがやって来ました。🚗


 1日も早く雑貨店を立ち退かせないと、それだけ金儲けが遅くなる地主の息子は、ズカズカ無遠慮に店に入って来ると、さもいやそうに店内を見まわし「よくもまあ、こんなお化け屋敷に住んでいられるよなあ、ばあさんよう」毒を吐き捨てました。


 じつは、地主の息子には息子なりの言い分がありました。

 湧き出た温泉を本格的な観光拠点にしようと町が整備を始めたので、ライバル会社に先を越されでもしたら、ホテル経営で見込んでいた儲けがなくなってしまいます。


 儲けへの焦りのあまり、息子のなかでおばあさんが完全な悪者になっていました。

 で、「明日には出て行ってもらう」など、とんでもないことを言い出したのです。

 

 ――どうかそんなことを言わないでください。

   後生ですから、お助けくださいまし。🙇

 

 おばあさんは土間に額を押しつけて頼みましたが、息子はがんとして聞きません。

 しまいには父親ゆずりの短い脚に取りすがって頼みましたが、新品の高級スーツに触れられた息子は、いっそう青筋を立てて、邪険におばあさんを突き転ばしました。


 大爆音で遠ざかって行くエンジン音を、おばあさんは倒れたまま聞いていました。

 地面を伝わって来る寒さも、腰の痛みも、おばあさんの身体はなにも感じません。


 苦労して起き上がってみたところで何になるというのでしょう。

 おばあさんには、行くところがないのですから。(´;ω;`)ウッ

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