第13話 人は去り、かわって動物たちが……


 

 雪のように時が積り、おばあさんの髪は白くなり始めました。

 背中は丸まり、老眼鏡がないと、商品のラベルも読めません。


 世の中には品物があふれ、ぜいたくが当たり前になりました。

 村の小さな雑貨店でつましく買い物をするより、町のスーパーマーケットに一家で車で乗りつけ、大量に買うほうが現代的でハイカラな生活ということになりました。


 そうこうするうちに山里の不便な暮らしに見きりをつけた人たちが村を去り、山麓に新道ができたこともあって、おばあさんの雑貨店は見るみる寂びれていきました。


      *


 お得意さんがひとり減りふたり減りして、とうとうだれも来なくなりました。

 おばあさんはだれとも話をしなくなりましたが、かわりに、森の小鳥や山の動物、湖にやって来る白鳥やカモなどの水鳥たちが、おばあさんの友だちになりました。


 子連れの動物には店のお菓子を持たせてやったり、人間にするように、けがや病気の手当てをしてやったりするおばあさんに、動物たちもたいそうなついています。👵


 おばあさんが風邪を引いたり腹痛を起こしたりして休んでいると、だれかがそっと店先に季節の山菜やグミの実、キノコ、栗の実などを置いて行ってくれます。🍄


 秋の終わりには、ひと冬分のたきぎがいつの間にか縁側に積まれていますし、春先には、梅、桃、山吹、山桜の花の小枝が、庭の日だまりに置かれていたりします。🌺


      *


 店の壁に掛けてあった鏡が突風で壊れてしまってから、おばあさんは長いこと鏡を見たことがありません。ですから、自分がどれほど歳を取ったか分からないのです。


 暮れになると、仕入れ先の問屋から送られて来ていたカレンダーも、いつの間にかぱったり途絶えてしまったので、おばあさんは今が何年何月何日なのか知りません。


 おばあさんの頭のなかで、時間は止まったまま……。

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