惑星始球式のタブー

ちびまるフォイ

思いはきっと届く

「え、僕が惑星始球式を!?」


まさか自分がほまれ高い惑星の始球式に参加できるとは思わなかった。

いちもにもなく飛びついたのは言うまでもない。


始球式でこの銀河宇宙球場に新しい惑星ができるのだから、こんなに嬉しいことはない。


楽しい気持ちは話を受け取った直後で、惑星始球式の日が近づくにつれ徐々に不安の比率が増えていった。


「どうしよう……ちゃんとミットに届くだろうか……」


惑星始球式でほおるのは、まだ惑星になりきっていない星のたまご。

惑星ミットに届く前にワンバウンドしたらすべて台無し。


新しい惑星はぐちゃぐちゃになって生態系も崩れてしまう。

せっかく新しい自分の惑星なのだから、どんな衝撃も与えたくはない。


「よーーし!! 練習しまくるぞーー!!」


その日から始球式まではトレーニングの日々だった。


どこにも凹みのないきれいな自分の惑星を作るという目的があれば、

どんなに辛いトレーニングにも不思議とがんばれた。


しかし読む側としては退屈になるからか

汗と涙のトレーニングパートは大幅な省略の憂き目にあい、気がつけば始球式の日となった。


「ふっふっふ。コンディションはばっちりだ」


この日のために惑星がしっかり届くように何度も投げ込んできた。

もう今となってはワンバウンドさせるほうが難しいくらい。


なにをどうまかり間違っても、なんの衝撃を与えることなく惑星ミットに届かせられる。



『惑星始球式の方はマウンドに来てください』



アナウンスで呼ばれてマウンドに立った。

惑星のたまごが、惑星ボーイより手渡される。


「これをあっちの惑星ミットまで投げ込めば……ってあっつっいい!!」


惑星を握った手がやけどしてしまう。

熱した鉄球でもにぎったのかと思った。


「この惑星……どうなってるんだ!?」


惑星のたまごの二酸化炭素濃度は非常に高く、

温暖化どころか灼熱の様相をていしている。


これを始球式でぶんなげるなんて、どういう罰ゲームなのか。


しかし、ここで始球式を降りるわけにはいかない。

省略されたトレーニングの日々と仲間との出会いと別れ。その全てが無駄になる。


なんとしても、この惑星にダメージを与えずにミットに届けなくちゃいけない。

ワンバウンドして衝撃なんてみっともない姿は見せられない。


「うおおお!! やってやるぞーー!!」


歯を食いしばって惑星をむんずとわしづかみした。

ジュウと焼き肉以外で聞きたくない音が手のひらから聞こえてくる。


体は「すぐに手放せ」と危険信号を何度も送っているが、

そんな悲鳴には耳を貸さずに渾身のオーバースローフォームを取る。


「届けぇぇーーーッ!!」


最後の力を振り絞って惑星をミットめがけて投げた。


飛んでいく惑星はまっすぐ惑星ミットに向かって飛んでいく。

その軌道には迷いがなく、地面にかすることもなくミットへ向かってゆく。


「いっけぇーー!!」


激しい勢いをともなった惑星は火の玉となり進む。

これまでの思い、託された願いを乗せてミットへと向かう。


惑星ミットはすぐそこだ。

あそこに届けばダメージのないキレイな形の新惑星が誕生する。

すべての努力が報われる……!



そしてーー。




カッキィーーーン!!



惑星球場に気持ちの良い快音がこだました。

最後に見たのは、打ち返されてひしゃげた新惑星が流れ星のように飛んでいく美しい軌跡だった。


始球式で乱闘が起きたのは、この惑星球場ではじめてのことだったという……。

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