14 同衾戦争 終
沙恵をベッドの中で待ち始めてからしばらくが経過した。
未だ部屋の扉は開かれない。
耳を澄ましても足音は一切聞こえない。
今か今かと待っている……のだが、暗い部屋の中でただひたすらに意識を保つというのは多少無理がある。
柔らかい眠気が襲ってくる。「眠ってしまえ」と俺を誘惑する。
ここで誘惑に負けて安眠に入ることは許されないのだ。俺は沙恵を現行犯で注意して、本当の意味での『安眠』を手に入れなければならない。
(落ち着け……機会を伺っている沙恵だって同じくらい眠たいはずなんだ!)
そうだ、そうに違いない。
そう言い聞かせて意識を保つ。
だが、瞬きをした時になかなか瞼が上がらない所を見るに、俺は限界に近いらしい。
(くそ! またもや妹と寝ることになるのか……!)
……意識がゆっくりと羊の楽園へ落ちていきそうになったその瞬間に、俺の眠気はすっかり断ち切られた。
扉が開く音がしたからだ。
俺はとっさに部屋の扉へと目をやったが扉は開いていない。
……確かに音は聞こえたはずなのだ。
なのに扉は開かれていない。
(ポルターガイスト!?)
あまりの眠たさに思考回路がバグってしまった俺はそんなことを考えながら辺りを見回す。
そして絶句した。
今まで俺を席巻していた眠気なんて全て吹き飛ばしてしまうほどの衝撃を得た。
なぜかって? 見えたんですよ。
目が……合ってしまったのです。
僅かに開いたクローゼットの扉の隙間からじっくりとこちらを観察する二つの目と、合ってしまったのです。
それはゆっくりと怒りを含んだ声色で
「見……た、なー……!」
目を合わせてはいけない、そう本能が悟り、俺は反射的に布団を頭から被った。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
静寂が立ちこめる部屋の中に哀れな兄の上擦った声が響き渡った。
*
クローゼットから出てきたそれが誰かというのは言うまでもない。
俺と同じ布団に入りたいがためにそんなことまでするのか。
……だがまぁ、クローゼットの一件から俺の布団に入り込もうとする変態行動は、なりを潜めた。
つまり、俺は勝利したのである。
妹との同衾を阻止したのだから。
でもなんだろう、勝利したのは事実なのだけど、負けた気がしてならない……。
沙恵にとっては同衾するよりも、夜中に兄の面白い悲鳴が聞けただけで満足なのだろうか。……なぜあの時布団を被って子供みたいに叫んでしまったのだろうか。
後悔は残るばかりだが、とりあえずは危険を回避することはできた。
ぼっち兄貴の戦いはまだまだ続いていく。
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