依存

ネルシア

依存

とある大学のゼミの顔合わせ。

メンバーの中に一際異彩を放つやつがいた。

ゴシックならまだ理解はできる。

でも、ロリータはないだろ、と。

加えてツインテ。

さらに自己紹介の発言。


「夢見 愛愛(めあ)です。レズです。僕は男に興味ないので。」


私もレズではあるけど、名前が・・・。

めあって・・・。

しかも僕っ娘・・・。

いや、声はかわいいけどさ?

お世辞にも見た目は良いとは言えない。

普通の女の子が可愛くお化粧している程度。


その娘の紹介のインパクトが強すぎて、私の番になっても気が付かないほどだった。

先生に咳ばらいをされて、慌てて自己紹介をする。


みんなの視線が私に刺さる。

それは、私の自己紹介が遅いからだけではない。


「スレーシア・加絵です。」


ざわつく教室。

まぁ、見た目が外国人で流暢に日本語話したらそりゃ気にはなるわな。


一通り自己紹介が終わった後、お決まりの質問攻めが始まる。


・何人?

・英語話せる?

・どっちが外国人?

・お父さんとお母さんの出会いは?


幼少の頃からの決まりきった質問。

人の心に土足で踏み込んでくる質問。

仲良くもないのに。


「じゃぁ、そう聞くあんた達は何県と何県のハーフで方便喋れるの?」


静まり返る教室。


「あれ?難しい質問だった?」


とぼけた振りをするその発言主は愛愛だった。


「あんたらさぁ、自分が聞かれて答えたくないものを他人に聞くなよ。

 そんなプライバシーを侵害する質問して楽しいわけ?」


私の周りから人が離れていく。

ありがたい。


ゼミの顔合わせとこれからの予定の照らし合わせが終わったところで、授業終了のチャイムが鳴る。

ゼミの教室にはいられないなぁと思い、食堂へと向かう。


ふぅ、とため息交じりに席に着くと、私の横に何の断りもなく愛愛が座る。


「あんな質問されるの疲れるよね。」


驚愕する。

理解が追い付かない。

こんな簡単に私が欲しかった言葉を投げかけてくれた。


「え、黙ってずっとこっち見られるの怖いんだけど。」


「あ、あぁ、いや、ごめん・・・。

 そんなこと言ってくれる人初めてでさ。」


そう言うとうわぁ~という顔をされる。


「よっぽどいい人に巡り合えなかったんだね。よしよし。」


自然と当たり前に私が軽蔑の眼差しを向けていた相手が私の頭を撫でる。

襲ってくる羞恥心。

頭を撫でられることよりも、自分が見た目で人を判断してしまったという事実に。


「ちょっと、泣かないでよ・・・。」


「え?え?違う、こんなの違う。」


涙が流れていた。

その人の優しさに、私の人の悪さに。


「二人きりになる?」


その質問に断れるはずもなく、愛愛が住む場所へと無言のまま連れていかれた。


「あがって。」


部屋はきれいに片付いていて、思っていたより何もない。


「どこに座れば?」


「布団でいいよ。」


「じゃぁ、お言葉に甘えて。」


整えられたベッドへ腰かける。

その横にゴスロリ衣装のままの愛愛。


「近くない?」


「今まで辛かったでしょ?」


そういって私の頭を撫でる。


「えっと?」


「僕もこんなだからさ、人にとやかく言われたり、キツイって言われたからさ。

 外国にルーツがあるならなおさら大変だったんだろうなって。」


そこから堰を切ったように今まで自分が言われてきたこと、されてきたことが止まらなかった。

泣きじゃくりながら話す私をただひたすらに、辛かったね、今までよく頑張ったね、と私を抱き寄せて落ち着かせてくれた。


私の弱みを理解してくれる人なんて初めてで、その人と過ごす時間が長くなったのは必然だった。


あっという間に大学生活は流れ、夏休み直前。

自分の寮の部屋であることを考える。


夏休み愛愛と会えないのか・・・。


毎日、いつでもどこでも二人きりだった。

どっちかというと、愛愛がいつもそばにいてくれた。

スマホで電話をかける。


「どうしたの?」


いつもと変わらない愛愛のかわいい声。


「夏休み空いてる?」


「うーん・・・洋服見たり作ったり直したりするから・・・。」


「そう・・・だよね・・・。」


「そんなあからさまに残念がらないでよ・・・。

 そうだなぁ・・・合鍵は流石に作れないけど、私の家にずっといるなら」


「それでいい!!」


思わずさえぎってしまった。


「そう?それなら私の家に来てね。」


すぐに何日か過ごせる洋服と日用品をスーツケースに詰め、急ぐ。


こんなに急ぐ必要あるっけ?

心の奥底に芽生えたわずかな違和感を放る。


チャイムを狂ったように鳴らす。


「はいはい、そんなに急がなくても大丈夫だよ。」


ゆっくりとドアを開けてくれる愛愛。

いつもの化粧がなく、洋服もジャージで驚いたことに眼鏡だった。


「入って。」


言われるがまま中に入り、荷物を部屋の隅へ置く。


「そんなに焦っちゃってかわいいね。」


抱きしめられ、頭を撫でられる。


「だって離れ離れだなんて考えられなくて。」


面白おかしく笑う愛愛。


「そんなこと言ってると私から離れられなくなるよ?」


「それもそれでいいかなって。」


互いに笑いあい、夏休みの間、愛愛がいる時は甘やかされ、いない時は家事をこなす日々が続いた。


幸せだ。


そう感じた。


あっという間に3年が経ち、就活の時期。

私は愛愛以外のことを考えられなくなってしまっていた。


「愛愛はどうするの?」


「実はね。自分のブランドを立ち上げようと思ってる。

 みんな私のこと興味ないみたいだけど、その道では結構有名なんだよ。

 名刺ももらってるし、本格的に活動しようかなって。」


「そ、そうなんだ・・・。私もついていっていい?」


「え?」


「え?」


互いに顔を見合わせる。


付いていってもいいものだと思っていた私。

付いてくるとは思ってなかった愛愛。


「え、いや、だって、私たちほら、同棲もしてるし・・・。」


「・・・仕方ないなぁ。」


困り顔をする愛愛。


「ついてきてもいいけど、私はあなたのこと同居人というより便利な人扱いしちゃうと思うけど、いい?」


「愛愛のそばにいられるならなんでもする。」


「わかった。」


そうやって私は愛愛の家具の一つとしてずっとそばに付き添った。

ついぞ、私と愛愛は結ばれはしなかったけど、私は幸せだった。


本当に?


FIN.

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依存 ネルシア @rurine

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