D××/復活祭からXLII日後 キャメロットの近くの城

 夜の帳はすっかり降り切り、小道には風に揺れる花々と、夜に働く動物しかいない。その静寂を破ったのは、凛とした馬の蹄と、フードを被った一人の騎士だった。彼は迷うことなく道を進み、そのまま城の裏口までやって来た。馬を傍の留め具に繋ぎ、見張り番に声を掛ける。

「私だ。通してくれ」

 見張りは騎士の顔を見るや、即座に扉を開けて中に通した。冷たい廊下が続く、更にその先。そこには素晴らしい調度品の置かれた寝室と、実に美しい一人の王妃がいた。

「待っていたぞ、我の愛する騎士よ」

 烏のように黒いドレスに身を包み、滑らかな茶色の髪を頭の後ろできれいに纏めた彼女。その姿は花のように鮮やかで、また霞のように儚い。

「伝言が届いたかどうか不安であったが、おまえが来て安心した。愛しい者に会えないほど、悲しいことはない」

 三日前、従者が騎士に届けた伝言。彼はそれを聞くや否や、溢れる喜びを抑えることができなかった。やはり愛する者に会えるのなら、夢ではなくて現実の方が良い。

「私も今宵、あなたに会えたことを嬉しく思います。この世界で誰よりも美しい、王妃モルゴース……」

 彼は滑らかな声でそう言うと、頭に被ったフードを外し、ホワイトブロンドの髪を露わにした。陰に隠れていた赤い瞳は、まるで太陽のように輝いている。

「ラモラックよ、ぺリノア王の息子よ。身に着けた武具を取り、我の傍に寄れ。用があってキャメロットの近くまで来たのだ。だがそれよりも、おまえと過ごす時間の方が大切だ」

 モルゴースはラモラックの容姿を見つめると、ふっと優しい笑みを零した。武具を取った白い腕の先に、紫色の花が握られていたからだ。

「可愛らしい花だな。季節の色をしている」

「ぜひとも、受け取ってください。あなたの美しい髪に、とてもよく似合います」

 鎧を外したラモラックは、寝台の上に身を委ね、王妃の肌にそっと触れた。二人はそのまま見つめ合い、互いに口を寄せ合った――。

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