2015/08/08 オークニー諸島の宿屋

 今日の空は雲が多く、太陽も白いベールの下に隠れている。例の夫婦の娘姉妹とすっかり仲良くなったダネルは、廊下の掃除を終えたばかりのフランをよそに、元気いっぱいに外に飛び出していった。

「姉ちゃーん! おれ、外で遊んでくるー!」

 水色のワンピースを着た姉妹とともに、柔らかい芝生の上を駆けていくダネル。フランはその無邪気な様子を見て、思わずふっとため息をついた。

「いいわね、ダネルは。毎日楽しそうで」

 普段の生活に不満があるわけではないが、何故か弟の能天気さが羨ましい。これも大人に近づいた証拠なのだろうか。

「あら、フラン。あなたも外で遊びたいの?」

「別に、そういうわけじゃないけど」

 子ども扱いする母にムッとして、少し言葉が尖ってしまう。幼いダネルと一緒にされるのは、何となく嫌だったのだ。

「素直じゃないのね。なら遊びじゃなくて、おつかいを頼もうかしら。いつものケーキ屋さんで、カップケーキを買ってきてちょうだい」

 そう言うと、母はフランにお金を手渡し、ついでに「余ったお金で好きなケーキを買ってきていいわよ」と付け加えた。

「……分かったわよ、もう」

 可愛くない返事をしてしまったが、フランの心は途端に明るくなった。行きつけのケーキ屋はとても美味しく、最近では新作が出たらしいのだ。早く買いに行きたい一心で、彼女はせっせと支度をし、早足で玄関へと向かった。

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