好きな人から突然「一緒に逃げて」と誘われたら

 あまり異性に縁のないタイプの男子大学生が、急に片想いの相手から「あたしと逃げてよ」と誘われる物語。

 現実的な手触りが心地よい、現代ものの掌編です。
 全編を通じて描かれる片想い感の、このなんとも言えないもどかしさ。もっとはっきり言ってしまうなら「どうにもならない感」というか、「これ絶対いい感じの恋物語に落ち着いたりはしないんだろうなあ」という、その予感(というか確信)がもう最高でした。
 嫌な予感、といえばまあそうなんですけど、怖いというよりは寂しい感じの。

 ネタバレがそこまで致命的になるタイプのお話ではないと思うのですが、でも個人的に「どうせなら先入観のない状態で読んでもらいたいお話」だと思ったので、本編未読の方はこの先ご注意ください。



〈   この先ネタバレ(?)注意   〉

 彼に対しても彼女に対しても、それぞれ「お前は! そんなだから! お前なあ!」って言ってやりたくなる行動が満載なんですけど、でも読んでて嫌な気持ちやくさくさした気持ちにはならない(なれない)ところが本当に好き。
 しょうがないやつらだなー、と思うと同時に、「でも、まあ、わかる……」という気持ちが湧いてくるような。

 なんだかんだでこの逃避行、ふたりそれぞれにとって〝そうしてよかった出来事〟には違いないはずで、そういうところにホッとするような心地があります。
 都合のいい成果や、何か目に見えるプラスみたいなものはないんですけど。相応の場所に落ち着く中での、「でもよかったね」感。

 作中で人物がしっかり行動しているところが好きです。逃避行も、またその原因となった出来事も。言葉で語るだけじゃなくて、何か動いてるお話が好きなので。
 説得力というか、自然な納得感のようなものが嬉しい作品でした。