ホームレス看護師のノマドライフ

 楓と連絡がつかなくなって心配になった私は、彼女が借りている部屋に直接行ってみたが、既に引き払った後だった。


 3ヶ月ぶりに楓からショートメールが送られてきて、私の職場の近くまで車で来ていて、家まで送ってくれるという。


 職場を出ると、楓のSUV車が停まっていた。


「ひっさしぶりー。優香ゆうか。元気だった?」

 丸い顔が若干縦長になったような気もするが、車から出てきて、私に手を振っている楓は元気そうな様子だった。


「楓!今どこにいるの?連絡なしに引っ越ししたでしょ?」


「あぁ、ごめん。今ホームレスなの」


 35歳、バツなし、現在ホームレスの友人は何の憂いもなさそうな様子で、その事実をカミングアウトした。


「まさか無職ってことはないでしょうね!?」

「仕事は続けてるよー。傷心だけど、仕事しないと周りに迷惑かかるでしょー?」


 楓の返答に少し安堵したが、いきなり音信不通になることに迷惑をかけている自覚はないのか…私は呆れた。


 彼女は元々、派遣の看護師として生計を立てていて地方勤務も度々だったが、拠点は東京だったため、都内に部屋を借りていた。

 ノマドワーカーではあったものの、住む部屋はあったのだが、今は完全に車中生活なのだろうか…。


「楓、この3ヶ月間どこにいたのよ?」


「和歌山だよー。住居付の仕事なので、3日前まではホームレスじゃなかったんだけど、契約期間満了で、一昨日引っ越ししてきたとこなの。この車に積んであるのが私の全財産」


「次の仕事までの1週間ほど、リアルガチホームレス生活です!」

 楓は何故か誇らしげだった。


「冷蔵庫とかの大型家電はどうしたの?」


「ああ、もうだいぶ古くなってたし、東京出るとき全部捨てちゃったよ。契約期間中は家具家電付の物件に住めるから必要ないし、永住したいところができたら、その時にまた買おうかなって。究極の断捨離でしょ!」


 今日泊まるところをまだ決めていないと言うので、私は楓を自室に招いた。


「引っ越しって言っても、身の回りのものしかないし、車に積んで終わりだから、一昨日は和歌山を観光してたのね。熊野那智大社とか神社の後ろに大きな滝があって超綺麗で。滝行とかやったら映えそうでしょ!」


 楓は撮った写真を見せて上機嫌だった。


 落差133メートルの滝で滝行なんてしたらどうなることやら…

 那智の滝…水量では圧倒的に負けますけど、落差ではナイアガラの滝に圧勝するんですよ。


 楓の無謀な提案に心の中で突っ込み入れつつ、綺麗だねと褒めておいた。


「その日泊まった龍神温泉も、凄く良かったの、お肌ツルツルになるんだよー」


 和歌山を出発した後は岐阜を観光、馬籠宿で一泊してから東京へ戻ってきたという彼女は、何だか楽しそうで、とても傷心しているようには見えなかった。


「楓、何があったの?」


「また、今度話すねー。明日早いし、もう寝よう。今日は泊めてくれてありがとうね」

 楓は笑顔で礼を言い、その夜は眠りについた。


 翌朝、私を職場に送ってくれた後、楓は次の職場のある群馬県へと出発した。

 仕事開始までに数日あるため、草津温泉と伊香保温泉を渡り歩くと意気揚々だった。













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