チェスキークルムロフで死にたい

Kikujiro

老人ホームが舞台のスポ根ドラマはアリなのか?

「昔のスポ根ドラマって、何であんなに人が死ぬの?」

 友人の黒沢楓くろさわかえで曰く、若い人があんなに死ぬのはおかしい。学校が呪われてるとしか思えないから実はホラーでしたって設定の方がまだリアリティがある…とのこと。

「あの頻度で人を死なせたいのであれば、高校じゃなくて老人ホームを舞台にしないとダメっしょ!」


 老人ホームが舞台のスポ根ものを想像して、思わず吹きそうになった。


「それはそれで笑えるドラマになるかもしれないけど…。スポ根の醍醐味の感動を誘うって部分で弱いような…」

 私の返答に対して、楓は深く頷いた。


「そうだよね。ご老人がラグビーなんかしたら、毎回全員命懸けだし、泣きどころが、わかんなくなっちゃいそうだよね」

「スクラム組んで心筋梗塞起こしちゃったとしても、介護用ベッドの上で死ぬくらいなら、フィールドの上で死ねて幸せ…って話になっちゃうし」


 ラグビードラマ…私は見ていないので話は知らないが、楓は昔流行った某有名ドラマのことを言っていたのだろう…。


 楓よ…その無駄に逞しい想像力、どこかで何かに生かせないものか…。思わず、そう突っ込みを入れたくなるのを堪えて真面目に答えた。


「若者は何かに打ち込むことで、人生を変えることができるかもしれないけど、老人だとドラマとしてなかなか難しいかもね。人生変える…じゃなくて人生が終わっちゃう可能性もあるし」


「そうだよね、人生変えることがあの世ゆき…ではね。私は老人ホームよりも、チェスキークルムロフで死にたいな」

 365日能天気そうな楓が珍しくネガティブな発言をしている。


「あら、珍しいじゃない…何かあったの?ところで、チェスキークルムロフってどこよ?」


 私は少し心配になったが、それを見せると楓は絶対話さないだろうと思い、やや軽めの口調で聞き出すことにした。


「あ、別に今すぐ死にたいわけではなくて、とにかく、今無性にチェスキークルムロフに行きたくて…チェコにある街なんだけど、そこへ行ってからじゃないと死ねないなって感じで!!」


 楓は元気よく答えたが、その後三ヶ月間音信不通となった。



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