第34話 マクシミリアンとの昼食

 中庭にある四阿あずまやのひとつに見える美しい銀色の髪、この世界の人間からすれば色素が薄くて何のありがたみも無いがアレクシアにとっては拝みたくなる美しさだ。



「お待たせ、マックス。アレクシアを連れて来たよ」



「こんにちは、マクシミリアン様。おくつろぎのところ申し訳ありませんが、ご一緒させて頂きますね」



「あ、いや、どうぞ……」



 アレクシアがデレデレと緩い笑顔にならないように頑張って微笑みを浮かべて挨拶すると、マクシミリアンは一瞬だけ目を合わせたがすぐに目を逸らして言葉少なく返事した。



(やっぱり眼福過ぎる~! 目ぇ逸らされたのはちょっとショックやけど、その分こっちがガン見したるもんね。あれ? 何か顔赤い? もしかして私に対して照れてくれとるとか!? あかん、自惚れたらアカン! ただの人見知りとか赤面症っていうパターンかもしれんし!)



 浮かれそうになり、脳内で自らの拳で頬を殴りつけ気持ちを落ち着かせる。

 マクシミリアンの実際の心境は今まで関わった事の無い美少女に対して、緊張のあまりすぐにでも逃げ出したいというものだった。



「さ、食事にしようか、マックスは今日は何にしたんだい? 私達はアレクがカトラリーを使わない食事をしてみたいというのでコレにしたよ」



 モジモジと話も動きもしない2人を見かねて、オーギュストが買ったばかりのナンで肉や野菜を巻いたような軽食を取り出した。



「ああ、俺も同じやつだ、中身はチキンにした」



「へぇ、じゃあアレクと同じだね、アレクは平民向けの薄味だけど。私は豚肉にしたよ。はい、アレクの分」



「ありがとう、オーギュ兄様」



 オーギュストから包みを受け取り皆でカサカサと包みを開けて齧り付くが、アレクシアの小さい口ではオーギュストやマクシミリアンのように咥えて齧る事が出来そうになかった。



「大きくて口に入りきらないわ、お口からはみ出ちゃいますね」



(コレは無理やり口に入れたら顎外れそうやな、しゃーない、角から攻めるしかないな)



 丸齧りは諦めて円柱形の角から齧ると、香草の効いたソースとチキンの肉汁が口に広がる。



「んん~♡」



 記憶を取り戻してからというもの、ファストフードに飢えていたアレクシアは上品にナイフとフォークを使わない今世初めての食事に兄達の視線も忘れて感激していた。



 一方マクシミリアンは貴族令嬢がカトラリーを使わない食事なんて出来るのだろうかと心配していたが、齧り付く事に抵抗が無いという事にまず驚いた。

 そしてアレクシアが口にした言葉と、円柱形のモノを小さな口を頑張って大きく開けて頬張ろうとする姿に視線が釘付けになった。



 味わって目を閉じ、美味しそうに咀嚼する姿に我に返って自分も続きを食べるが、突き刺さる視線には気付いている。

 そちらを向くと、ジトリと胡乱気な目でマクシミリアンを見る親友がそこに居た。



(仕方無いじゃないか、どれだけ見た目が残念でも健康な男なんだから! お前だってそう思ったからそんな目で俺を見てるんだろ!? 少々幼いとはいえこんな美少女のあんな……、ダメだ、今はあまり考えない方が良い)



 親友にアイコンタクトで訴えたが、立ち上がれない状態になってはマズイと反芻するのを中断した。

 オーギュストはそんなマクシミリアンを見て小さくため息を吐き、男同士のそんなやりとりに全く気付いていない妹に視線を向けた。



「オーギュ兄様、コレは少し食べ辛いけど、とても美味しいわ」



 口の端にソースを付けてニコニコと食べるアレクシアの姿に思わず苦笑いを浮かべてハンカチでソースを拭き取った。



「そうだね、でも今度から人前でそれを食べるのはやめた方が良さそうだよ?」



 そう言ってハンカチについたソースを見せると、面白いくらいにアレクシアの顔が真っ赤に染まった。



「あ、あの、はしたないところをお見せしてしまって申し訳ありません……」



 今更ながらお世辞にも上品とは言えない大口を開けて食べる姿を、マクシミリアンに見られたと気付いた。

 しかも口にソースをつけたの姿まで。



(やらかした~! 2人が普通に食べとるで忘れとったけど、マクシミリアン様も貴族やから令嬢が齧りついて食事する姿らぁ見た事無いんちゃうか!? アカン……終わった……)



 羞恥で顔を赤く染めたまま萎れるようにしょんぼりしている姿に、マクシミリアンは思わず吹き出してしまった。



「ふく……っ、あははは、オーギュから聞いていた通り今まで見てきたどの令嬢とも違うな。アレクシア嬢がはしたないなら、俺達ははしたないどころじゃないから気にしないでくれ」



(く……っ、中身までイケメンか! 笑顔も素敵過ぎるやろ!)



「あ、あの、よろしければアレクと呼んで下さい……」



 頬を染めつつはにかんでアレクシアがそう言うと、マクシミリアンが固まってしまった。



「……マクシミリアン様?」



(返事が無い、ただの美しい彫像のようだ。……じゃなくて!)



 不安になってオーギュストに訴える。



「オーギュ兄様、マクシミリアン様はどうなされたのかしら?」



「大丈夫、ちょっと驚き過ぎただけだと思うよ。そろそろリリアン嬢達も食事が終わっているだろう、マックスは私に任せて先に戻るといい」



 オーギュストは肩を竦めてアレクシアを促した。



(う~ん、親友のオーギュ兄様が言うなら大丈夫なんやろか? 暫く復活しそうに無いし、ここは任せよか)



「ええ、それじゃあ先に戻るわ。ケーキは放課後に寮まで届けるからね。マクシミリアン様、失礼致します」



 まだ固まったままのマクシミリアンに挨拶をして、アレクシアは教室へと戻った。

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