第33話 アレクシアの作戦

「おはようございます、オーギュ兄様……」



「おはよう、アレクシア……どうしたんだい?」



 挨拶を交わしてアレクシアが頭の中で何と言えば良いかシミュレーションしていたら、いつもと違う様子に気付いてオーギュストが首を傾げた。



「あのね、昨日ガトーショコラというケーキを自分で作ってみたの。リリアン達と試食会したんだけど美味しく出来たからオーギュ兄様にも食べてもらいたいな~、なんて……」



 アレクシアは己のメンタルが削られるのを覚悟で、えへっと美少女のみに許されるモーションで笑顔を浮かべた。

 それを聞いたオーギュストは、わかりやすくパァッと顔を輝かせる。



「凄いじゃないか、自分で作ったのかい? まぁ……、家でやったら確実に止められるだろうけど。アレクシアの手作りかぁ、楽しみにしてるよ」



 オーギュストはニコニコと嬉しそうな笑顔でアレクシアの頭を撫でた。

 笑顔を浮かべながらアレクシアはゴクリと唾を飲み込む。



(言うんや、今ならきっと自然に言える!)



「そ、それでですね、ちょうど2切れありますので是非ご友人の……マクシミリアン様と召し上がって頂いて感想を聞かせて欲しいの。もっと甘い方が良いとか、甘さを抑えた方が良いとか、今後の改良の為にも個人的な意見でいいから、お願いね」



「わかった、きっとマックスも喜ぶよ」



(ぃよっしゃぁ! ミッションコンプリートォ! いや、まだ実際に食べて貰えた訳ちゃうで舞い上がったらあかん)



 アレクシアが内心の興奮を抑えつつオーギュストと歩きながら微笑み合っていると、後方から声を掛けられた。



「やぁ、おはようアレクシア、オーギュスト。楽しそうだが何を話していたんだ?」



「おはようございます、セザール様」



「おはよう、セザール。アレ」「何でもありませんわ、ただの世間話です」



(あっぶなぁ! もしマクシミリアン様に言う前にセザール様が「私も食べたい」とか言うたらオーギュ兄様の事やでマクシミリアン様にはまだ伝えてないからってセザール様にあげるやろ! それだけは……それだけは阻止せんと!)



「それよりセザール様、昨日あれからテオドール王子に何か言われたりしませんでしたか?」



「ああ、何も言われていないから安心してくれ」



(セェェフ! ええ感じに話逸らせた!)



 安堵するアレクシアにオーギュストがいつもより低い声で問いかけながら肩に手を置いた。



「アレクシア? 第2王子に何か言われる様な事があったのかな?」



「え? あ、おほほほ、昼食に同席する様言われたのですがセザール様が先に誘って下さったし、リリアン達と居たから渋ったらご機嫌を損ねられて……。でっ、でもすぐにジェルマン王太子が助けて下さったので問題ありませんでしたよ? オーギュ兄様、目が笑っていない笑顔は怖いですわ」



「アレクシア……」



 背中に冷たい汗をかきながら説明と言い訳をするアレクシアに対し、オーギュストは先程と違い笑顔を無くして胃の辺りを押さえながらカクリと項垂れた。



「あっ、そういえばオーギュ兄様(とマクシミリアン様)はお見かけしませんでしたが、普段食堂で召し上がらないのですか?」



「ああ……、私もそうだが……特にマックスは人前に出ると嫌な視線を向けられるからね。幸い学園には食堂でゆっくり出来ない人の為に購買で軽食が売っているから、買って屋上や中庭で食べたりしてるんだ」



「まぁ! それなら私もご一緒したいわ、外で食べるのも楽しそうですもの」



「「えっ!?」」



 アレクシアの言葉にオーギュストとセザールが同時に驚きの声を上げた。



「アレクシア、聞いていたのか? マクシミリアンも一緒なんだぞ? それにリリアン達と一緒に食べるんだろう?」



「私が言うのもなんだけど……、本当に良いのかい? マックスも居るんだよ?」



「ええ、だって食堂でまたテオドール王子に絡まれ……誘われても困りますし……。オーギュ兄様、私まだ購買の場所をよく知らないからお昼休みに迎えに来て貰えると嬉しいな」



「わかった、じゃあマックスにも言っておくよ」



 そしてリリアンとレティシアには教室で訳を話し、アレクシアはソワソワしながら昼休みを迎えた。

 昼休みが始まってすぐに教室内が良くない雰囲気で騒ついた、入り口を見るとオーギュストが立っている。



「オーギュ兄様! 待っていたわ、早く行きましょう!」



 アレクシアは教室内の空気を無視して、満面の笑みで教室を出てオーギュストの元へ向かった。

 お茶会で2人が一緒に出席する事が殆ど無かった為、兄妹だと知っている者が少ないので更に教室が騒めいた。



 そんな事にも気付かずアレクシアはウキウキとオーギュストの腕に手を絡めて購買へと向かう。

 食堂へ向かう予定のリリアンとレティシアは顔を見合わせて肩を竦めた。



「アレクったら……、自分がどれだけ注目されているのかわかってないと思わない? わたくしより目立たないと思ってるようだけど、そうでも無いのに」



「そうね、というより今日のアレクは妙に浮かれている気がするわ。オーギュスト様とご一緒するだけであんなに浮かれるとは思えないし……、何か他に理由がある気がする」



「そうね、ラビュタン家の兄弟は前から仲が良いけど、一緒に食事するだけにしてはおかしいわ。レティ、これは後で詳しく聞くべきだと思わない?」



「きっと人前では話さないでしょうから、聞き出すのはメイド達が夕食を食べに行く時間ね」



 2人はニヤリと笑って頷き合った。2人がそんな会話をしているとは夢にも思わず、その頃のアレクシアは初めての購買で何を買おうか迷っていた。

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