第30話 ぽっちゃりvsぽっちゃり

「やぁ、待っていたよ。あちらで一緒に食べないか?」



 3人が食堂に入った途端声を掛けて来たのはセザールだった。アレクシアはあちらと言われた方を見つつも、サッと視線を巡らせてマクシミリアンが居ないか探した。



(残念、マクシミリアン様おらへん……、まだ来てないだけかいなぁ?)



 アレクシアは内心ガッカリしつつ、判断を任せようとリリアンを見た。



「わたくしは構いま」「アレクシア、待っていたぞ。こちらで俺と食事をしようではないか」



 リリアンが頷こうとした瞬間、横から第2王子のテオドールが会話に割り込んで来た。



「え……あの……」



「さぁ、こちらだ」



 テオドールが向かおうとする先は王族専用の場所で、明らかに2人分の席しか用意されていなかった。

 学園で人気者のセザールに続いて第2王子からも声を掛けられているアレクシアは、食堂内にいる生徒達の注目を集めていた。



(うそやん! 友達とおるのわかっとるやろ!? しかも従姉妹のリリアンもおるのに無視かーい! 久々にうたけど、さり気なく呼び捨てにされとるし俺様っぷり健在やな……)



 アレクシアは脳内にてドロップキックでツッコミを入れつつ少し困った様な笑顔を浮かべた。



「テオドール王子、お誘いありがとうございます。ですが私は友人と一緒なのです、それともこのお誘いは『御命令』ですか?」



 テオドールはチラッとリリアンとレティシアをに視線を向けてからキッパリと言った。



「そうだ、命令だ。昼食に付き合え、アレクシア」



 テオドールの言葉を聞いた瞬間アレクシアの顔から表情が消えた、例えるなら普段部屋に控えているメイドのように。



「畏まりました、御命令とあらばご一緒させて頂きます第2王子」



 いつもと様子の違うアレクシアにリリアン達はポカンとしながら見ていたが、テオドールはムッと眉を顰めた。



「アレクシア、俺は名前で呼ぶ事を許していると何度言えばわかるんだ」



「今の私は臣下として『御命令』に従っている立場でございます。故に臣下としての立場ではお名前で呼ぶ事は控えるのが道理かと」



「な……っ」



 アレクシアはシレッと仲良くする気は無い事を明確に意思表示しつつ、命令だから従っているに過ぎないと暗に言ったのだ。

 遠回しな拒絶にテオドールは羞恥と怒りで顔を真っ赤にして言葉を失う。



「あっははは、テオドール、お前の負けだね。久しぶりだね、アレクシア嬢、随分美しく成長したね、テオドールが執着するのもわかるよ」



「こ、これはジェルマン王太子殿下、ご無沙汰しております」



 緊迫した空気を壊したのは何年も会っていなかった王太子のジェルマンだった。



(うぉぉ、ナイスタイミング! ありがとうございますジェルマン王太子!!)



「兄上……」



「友人と過ごす時間に横槍を入れたのはテオドールだろう。相手の都合も考えずに我儘を言ってはいけないよ。リリアンも久しぶりだね」



「はい、お久しぶりです、ジェルマン様」



 口惜しそうに呟くテオドールとは対照的に、リリアンは満面の笑みをジェルマンに向けた。



「行っていいよ、テオドールは私と昼食をとるからね」



「失礼致します」



「うふふ、ジェルマン様ありがとうございます。またゆっくりお話しましょう」



 アレクシアとリリアンはカーテシーで挨拶をすると、王族と遭遇して茫然としているレティシアを引っ張ってセザールと共に食事を取りに行った。

 寮と違って学園の食堂ではトレイに乗った食事を本人が取りに行くスタイルだ、王族のみお茶会で打ち解けた側近が侍ってお世話をする場合が多いが。



 アレクシア達を見送り、側近に食事の準備を頼んでジェルマンはテオドールを連れて半個室状態になっている王族専用のテーブルへと向かう。

 憮然とするテオドールの向かいに座り、ジェルマンは口の端を上げた。



「バカだなぁ、アレクシア嬢は王族の地位にも貴族としての権力にも魅力を感じていないと母上も言っていただろう。穏やかに過ごす事を好むというのに、あんなに注目を集めては嫌われてしまうぞ?」



「ですが……、あのままだとセザールに連れて行かれるじゃありませんか。実際あいつがアレクシアと一緒に食事をしているし」



 テオドールはチラリと同じテーブルで食事をしているセザール達4人を見、半眼になってジェルマンを睨んだ。

 睨まれてもジェルマンは苦笑いを浮かべて肩を竦めるだけで、大して気にした様子は無い。



「セザールは友人であるリリアンの兄という立場だからな、そういう意味では有利な立場と言えるだろうね。……テオドール、お前は自分の気持ちを無視し、命令して自分を思い通りにしようとする相手に好意を持てるのか? お前がアレクシア嬢にしたのはそういう事だと気付いているか?」



 ジェルマンはそう言うと運ばれて来た食事に手を付けた、テオドールは口惜しそうに俯いたまま膝の上で拳を握りしめている。



「ほら、ちゃんと食べないか、折角の恵まれた体格が細くなってしまったらどうするんだ」



「……っ」



 己の容姿が自慢のテオドールは苦い物を飲み込むような顔をしながらも食事を始めた。そんなテオドールを見てジェルマンが愉しそうに笑っている事にも気付かずに。

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